利回り革命が示す企業成長への転換点 成長投資へ評価軸が移る市場の新局面

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2025年12月、日本の株式市場でひとつの象徴的な出来事が起こりました。
日経平均の予想配当利回りが長期金利を下回り、15年ぶりに「株より国債の利回りが高い」という構図が生まれたのです。これは単なる数字の逆転ではなく、株式の評価軸が「配当中心」から「将来の成長性へ」と変わりつつあることを示唆する動きです。

インフレ環境が定着し、企業の売上や利益が伸びやすい土壌が整い始めたことで、株式市場が重視するものが再び変わろうとしています。この変化は「令和の利回り革命」とも呼べるもので、企業と投資家の考え方に大きな影響を及ぼします。

ここからは、利回り革命が意味することを段階的に整理し、企業・投資家双方に求められる視点の変化について考えていきます。

① 利回り革命とは何か ― 株式の価値基準の変化

かつて株式は「債券より高い利回りを得るための資産」として買われていました。配当利回りが債券利回りを上回るのが当たり前という時期が長く続き、投資家は安定した配当を目的に株を保有する傾向が強かったのです。

しかし、経済が成長し物価が上がる局面では、株式はインフレによる売上増や利益増を期待でき、値上がり益の方が重要になります。
このとき起こるのが「利回り革命」で、株式が

  • 配当を得る資産ではなく
  • 成長の恩恵を受ける資産

として評価されるようになります。

日本ではリーマン・ショック以降、「配当利回り>長期金利」という状態が続き、「逆利回り革命」とも呼ばれる時期が長く続いてきました。しかし今回、長期金利が上がり、株価が上昇し続けることで配当利回りが低下し、ふたたび「成長期待が株価を押し上げる局面」が訪れています。

これは、市場全体が再び「未来を買う」姿勢を取り戻しつつあるサインです。


② 低配当でも買われる成長銘柄 ― AI・データセンター分野が象徴

今回の利回り革命を象徴するのは、AIやデータセンター関連の銘柄です。ロボットを自律制御する技術を持つ企業や、半導体向けの基板・素材を扱う企業など、将来の産業の中核を担う企業が大きく買われています。

こうした銘柄の特徴は次の通りです。

  • 配当利回りは0%台、1%未満が多い
  • それでも株価は上昇し続けている
  • 成長投資を積極的に進める企業ほど評価されている

もともと高配当株として人気だった企業でも、成長分野に関わることで株価が急騰し、配当利回りが低下するケースも出ています。

これは「配当が高いから買う」という時代から、
「成長ストーリーが魅力的だから買う」時代へ移行している
ことを表しています。

高配当狙いの資金が抜けても、その後に成長マネーが入ってくるという構図は、まさに利回り革命の核心と言えます。


③ 企業が迫られる二つの選択 ― 成長か、還元か

利回り革命の中で、企業は重要な選択を迫られます。

  1. 成長投資に舵を切り、新しい市場や技術への挑戦を強める道
  2. 長期金利に負けないだけの配当を出し、「高配当企業」として投資家を引きつけ続ける道

どちらの道が正しいとは一概に言えませんが、共通して求められるのは以下の点です。

  • なぜその戦略を選ぶのかの説明責任
  • 現預金をどれだけ持つべきかという資本政策の明確化
  • 成長投資に踏み切る場合は、具体的な戦略と成果指標の提示
  • 還元を選ぶ場合は、安定収益と持続可能な配当方針の裏付け

ガバナンス・コードや東証改革の流れもあり、企業は「なんとなく現金を貯めておく」ことが許されにくくなっています。

重要なのは、どちらを選ぶにしても「企業の論理と戦略」が投資家に理解されることです。

また、成長投資は決して簡単ではありません。
国内市場が縮小する中で、世界の最先端技術や国の支援が得られる分野に適切に投資できるかが問われます。

人的資本への投資、研究開発、AI活用など、企業の基盤を強化する取り組みも成長の土台になります。

利回り革命は、企業が未来への投資をどう位置づけ、どう説明するかを根底から問い直す動きでもあります。


④ 投資家にも変化が求められる ― 配当だけで企業を選ぶ時代は終わりへ

利回り革命は企業だけでなく、投資家側の視点にも変化を促します。

これまでは、

  • 銀行預金は利息がつかない
  • 国債は長期でも低利回り
  • 株式は3%前後の高配当株で安定収益を得る

という構図が支配的でした。

しかし、いま起きているのは以下のような環境変化です。

  • 長期金利が上昇し、安全資産でも一定の利回りが得られる
  • 株価は成長期待で上昇し、配当利回りは低下
  • 「高配当だから買う」だけでは市場と整合しづらくなる

投資家は、
企業の成長戦略、研究開発、人材投資、資本効率、グローバル展開など、配当以外の要素
を総合的に判断する必要が出てきます。

NISAを活用する長期投資家にとっても、この視点は非常に重要です。
積立投資では、短期の利回りよりも「企業の未来」が資産形成の成果を大きく左右するからです。


結論

利回り革命は、株式市場の評価軸が大きく変わりつつあることを示す象徴的な出来事です。企業にとっては、これまで曖昧にしてきた現預金の使い道や成長投資の姿勢を明確に示すことが求められ、投資家にとっては配当利回りだけでは企業を評価できない時代が訪れています。

この変化は一夜にして訪れるものではありませんが、10年後に振り返れば「ここが転換点だった」と語られる可能性を秘めています。企業が描く成長ストーリーと、それを評価する投資家との対話が市場を形づくっていく時代が始まっています。


参考

  • 日本経済新聞「利回り革命、企業成長問う 評価軸、配当より将来性」2025年12月6日朝刊

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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