70歳以上の医療費負担を軽減するための仕組みとして長く利用されてきた「高額療養費制度」。その中でも、外来について一定額を超えないように抑える「外来特例」は、患者にとって安心感が大きい制度として知られています。しかし近年、この外来特例の限度額が低く設定され過ぎているとの指摘が増え、制度の持続可能性への疑問が強まっています。
厚生労働省の専門委員会では、外来特例の限度額引き上げや対象年齢の見直しが議論の俎上に載りました。背景には医療費の膨張だけでなく、現役世代との負担バランス、高齢化の進行、そして制度の目的の再整理が求められていることがあります。
この記事では、見直し案のポイントを整理しながら、なぜ改革が必要とされるのか、その狙いと課題、そして今後の方向性について解説します。
1. 高額療養費制度と外来特例とは何か
高額療養費制度は、医療費が高額になった場合でも、患者の自己負担額が一定水準にとどまるようにする仕組みです。所得区分ごとに月ごとの上限額が設定され、負担が過度に重くならないように調整されています。
その中でも70歳以上を主な対象とする外来特例は、外来診療のみであれば
- 住民税非課税:月8,000円
- 一般:月18,000円
で上限が据え置かれ、何度受診してもこれ以上の負担にはならないという特徴があります。
制度導入時は「受療行動の抑制」を強めてしまうリスクから、高齢者の外来受診を支えることが求められていました。しかし時代が進み、高齢者の健康状態や受診パターンが変化する中で、制度の位置づけを問い直す必要性が増しています。
2. なぜ限度額の引き上げが議論されているのか
(1)外来受診率の低下と健康寿命の延伸
外来特例が導入された2002年と比較すると、高齢者の受診行動は変化しました。健康寿命が延び、日常の外来受診回数は必ずしも増えていません。
このため「安すぎる限度額が制度の目的に合致していないのではないか」という指摘が生じています。
(2)現役世代との負担の公平性
医療保険財政は、現役世代の保険料負担に大きく依存しています。
外来特例の負担が低く抑えられ過ぎていると、高齢者の医療費を相対的に現役世代が支え続ける構造が強まります。
特に今回は
- 少子化対策の財源として医療保険料に支援金が上乗せ
- ただし政府は「1兆円分の保険料軽減策」で実質負担増を避ける方針
という複雑な状況の中で、制度のバランスがより重要視されています。
(3)制度の持続可能性の問題
厚労省の試算では、24年末に検討された改革案のままでも「累計3,700億円規模の保険料抑制効果」が見込まれていました。
しかし今回、限度額や対象年齢の引き上げ幅を調整すると、この効果額が減少する可能性があります。
医療財政全体の持続可能性を高めるためには、制度の見直しが避けられないとの声が強まっています。
3. 専門委員会が示した見直し案のポイント
(1)外来特例の限度額引き上げ
外来特例については「限度額の見直し」が明記されました。
具体的な金額は今後の議論となりますが、24年末案では住民税非課税の中でも収入80万円を境に負担額を分けるなど「細分化」が検討されました。
ここから読み取れるのは、一律の負担軽減から、所得状況に合わせたきめ細かい負担設定へ向かう方向性です。
(2)対象年齢引き上げの検討
導入当時と比べて健康寿命が延びており、70歳以上を一律に優遇する根拠が薄れてきたとされています。
そのため「外来特例の対象年齢を引き上げる」案が提示されました。
さらに、現役世代との公平性を踏まえ「将来的には外来特例の廃止も検討すべき」との意見も併記されました。議論の幅は大きく、制度の根本的な問い直しが進んでいることが分かります。
(3)所得区分の細分化
現在の高額療養費は5区分で構成されていますが、たとえば年収370万円と770万円の患者が同じ区分に属するなど、所得分布と負担の対応が十分にかみ合っていないと指摘されます。
そこで住民税非課税世帯を除き
- 区分を3つに細分化
することが「適当」とされました。
これは応能負担をより正確に反映させる狙いがあります。
4. 長期療養者への配慮も維持
多数回該当(1年に3回上限に達した場合に4回目以降の限度額を下げる仕組み)については、現行維持が適当とされました。
難病患者など、長期療養で負担が重くなる人々への配慮は崩さない方向です。
さらに、もし限度額引き上げを行う場合でも
- 年1回以上上限に達した患者に対して年間限度額を設ける案
が提示されており、負担増への緩和策も組み込まれています。
5. 現役世代の負担増を避けられるか
2026年度からは、少子化対策の財源として医療保険料に「支援金」が上乗せされます。政府は1兆円規模の負担軽減策で実質的な負担増を避けると説明していますが、医療費改革が中途半端なままだと、結果として現役世代の負担が増え続ける構図は変わりません。
今回の外来特例の見直しは、その試金石ともいえる位置づけです。
高齢化が続く中で、年齢基準だけでなく、所得や医療ニーズに応じた負担構造へと移行できるかが問われています。
結論
70歳以上の外来特例の限度額引き上げ・対象年齢見直しは、医療費の持続可能性と世代間の公平性を巡る議論の焦点となっています。
今回の専門委員会案は
- 外来特例の一定の見直し
- 所得区分の細分化
- 長期療養者への配慮維持
という複数の視点から、制度全体のバランスをとろうとするものです。
一方で、高齢者の生活への影響や受診行動の変化を考えると、単なる「負担増」として受け止められかねず、与野党・関係団体を巻き込んだ議論は長期化が予想されます。
制度の目的を改めて整理し、世代間のバランスをどのように構築するかが、これからの医療制度改革の大きなテーマになります。
参考
- 日本経済新聞「70歳以上の高額療養費、外来『通い放題』限度額上げ」(2025年12月6日 朝刊)
- 厚生労働省資料(高額療養費制度の概要・専門委員会資料)
- 社会保障審議会医療保険部会関係資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
