第三者承継は、廃業を回避しつつ事業を未来につなぐ有力な選択肢です。一方で、引き継ぎ方や準備のやり方を誤ると、買い手・売り手の双方にとって負担の大きい結果になりかねません。
簿外債務の発覚、従業員の大量離職、主要取引先の離反、許認可の問題など、承継の現場ではさまざまなリスクが表面化します。こうしたリスクは、事前に知っておけば多くを軽減したり、回避したりすることが可能です。
今回は、第三者承継に特有のリスクを整理し、どのように管理・対処していくかについて確認します。
1. 第三者承継に潜む主なリスク
第三者承継に特有のリスクは、大きく次の5つに整理できます。
- 財務・税務に関するリスク
- 法務・契約・許認可に関するリスク
- 人・組織・文化に関するリスク
- 事業環境・営業に関するリスク
- コミュニケーション不足から生じる誤解・対立
それぞれの典型例と、備え方を見ていきます。
2. 財務・税務のリスク
——「知らなかった負債」が後から出てくる怖さ
第三者承継で特に注意が必要なのが財務・税務面のリスクです。
(1)簿外債務・偶発債務
- 長期の未払残業代
- 保証債務、連帯保証
- 過去の税務調査で指摘されそうな論点 など
株式譲渡の場合、会社そのものを引き継ぐため、こうした負債も原則として新しいオーナーが負うことになります。
対策のポイント
- 財務デューデリジェンス(財務DD)で過去数年分を確認する
- 税務申告内容や節税スキームの妥当性を税理士に確認してもらう
- 不安な点は契約書上で「表明保証」条項として明文化する
(2)税務リスクとキャッシュフロー
- 消費税の未払い・誤り
- 資産の評価替えによる税負担
- 承継後の納税資金不足 など
承継時の価格交渉では「税金を払った後に手元にいくら残るか」「承継後の返済や納税に耐えられるか」をセットで考える必要があります。
3. 法務・契約・許認可のリスク
——「引き継いだつもりが引き継げていなかった」
(1)主要契約の名義変更・承継不可条項
- 重要な取引契約に「承継禁止」「変更時は要承諾」という条項がある
- 大口顧客との契約が個人名義になっている
こうした場合、承継後に取引条件が変わる可能性があります。
対策
- 事業譲渡の場合、主要契約の条文を事前にチェック
- 必要に応じて、相手先に「承継の説明」と「承諾取り付け」を行う
(2)許認可・資格が個人名義になっているケース
飲食業、旅館業、建設業などでは、許認可や資格が前経営者個人に紐づいていることもあります。
対策
- 承継の前に、どの許認可が会社名義か、個人名義かを整理
- 承継後も継続使用できるか、再取得が必要かを行政書士等に確認
- 事業譲渡時は、許認可の引き継ぎが可能かどうかを事前に検討
4. 人・組織・文化のリスク
——数字だけでは見えない「現場」の温度差
第三者承継では、経営者だけが外部から変わるケースが多数です。そのため、従業員や取引先が心理的に不安を抱くことがあります。
(1)従業員の離職リスク
- 「知らない人が社長になった」
- 「待遇が悪くなるのでは」
- 「社風が変わるのでは」
こうした不安から、キーパーソンほど先に退職してしまうこともあります。
対策
- 承継前(または直後)に、旧経営者からの丁寧な紹介の場を設ける
- 当面の雇用・待遇方針を明確に示す
- 現場の声を聞く面談の機会を早期に設ける
(2)文化のミスマッチ
- 家族経営的な雰囲気の職場に、急に大企業のようなルールを導入する
- 長年のやり方を一気に変えて、反発を生む
変化は必要ですが、「変え方」には順番とスピードが求められます。
5. 事業環境・営業のリスク
——売上が「想定通りに維持できない」可能性
(1)主要顧客の離反
- 主要顧客が「前の社長との信頼」で取引していた
- 新体制への信頼が醸成される前に、別の取引先に切り替えられてしまう
対策
- 承継前から主要顧客に対し、旧・新経営者が一緒に説明に回る
- 当面は取引条件を変えない方針を示す
- 新たな提案は、信頼関係を築いてから少しずつ行う
(2)事業環境の変化を見誤るリスク
承継直後に
- 原材料高
- 競合の参入
- 規制変更
などが起きることもあります。過去の数字だけを前提に事業計画を立てるのは危険です。
6. リスク管理のための実務的な工夫
- 専門家のチームをつくる
- 税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士など
- 基本合意(LOI)の段階で条件を大枠整理する
- デューデリジェンスを省略しない(規模に応じた範囲で)
- 契約書に表明保証・補償条項を盛り込む
- 承継後の「100日プラン」を事前に描く(次回のテーマ)
結論
第三者承継には、多くのメリットと同時に、見えにくいリスクが存在します。ただし、その多くは事前の準備と専門家の関与によって軽減できます。
重要なのは、
- 「何がリスクになり得るのか」を知ること
- 「どこまで自力で対応できて、どこから専門家が必要か」を見極めること
です。
次回は、リスクを踏まえつつ、承継後の最初の100日をどう動くかという実務的な視点から、具体的なアクションプランを整理します。
参考
・中小企業庁「事業承継ガイドライン」
・各地の事業承継・引継ぎ支援センター 公表資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
