第三者承継が地域経済を救う時代へ(第4回)地域モデルの比較と成功に必要な条件

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第三者承継は全国的に広がりつつありますが、地域ごとに支援体制の成熟度や取り組みの方向性は異なっています。人口構造、産業構造、金融機関の姿勢、行政の支援力など、地域の条件が承継の進み方に大きく影響します。

事業承継は、本来は企業と後継者が個別に行う取引です。しかし、地域の産業や雇用を維持していくためには、行政・金融機関・商工会・支援センターなどの「地域の機能」が連携し、事業の受け手と引き手をつなぐ仕組みが不可欠です。

本稿では、兵庫県、新潟県、東京都、埼玉県という特徴的な4地域の事例をもとに、第三者承継が進む地域に共通する条件を整理し、地域ごとの違いを比較します。

1 第三者承継が進む地域に共通する三つの条件

全国のデータや事例を分析すると、承継がうまく進んでいる地域には共通するポイントが三つあります。

(1)支援機関が横につながる仕組みがある

支援センター、商工会、金融機関、行政が定期的に情報を共有し、企業の課題に応じて共同で支援する体制がある地域では、承継がスムーズに進みます。

単一機関だけで支援しようとすると、必要な制度や専門家につながらず、手続きが停滞しがちです。横断的な連携は、地域で第三者承継を根付かせるための基盤になります。

(2)外部からの担い手を受け入れる姿勢がある

地域外の企業や個人を積極的に受け入れる姿勢がある地域では、承継の可能性が広がります。外部の担い手が持つ経験やノウハウは、地域の事業の発展にもつながります。

伝統産業や観光業など、地域性の強い事業でも、外部の担い手がその価値を尊重し、継続させる事例が増えています。

(3)金融機関が「経営支援型」へ転換している

金融機関が融資中心から脱却し、事業の存続や成長を支援する姿勢に変わっている地域では、承継が成功しやすくなります。金融機関が持つ情報とネットワークは、承継の入口から出口まで一貫したサポートを可能にします。

この三つの条件は、地域が第三者承継に強くなるための土台です。


2 兵庫県:外部担い手とのマッチングを地域ぐるみで進めるモデル

兵庫県、特に豊岡市は、第三者承継の成約が飛躍的に伸びた地域として注目されています。

豊岡市の「継業バンク」は、事業者と担い手をつなぐオンラインの仕組みを整え、地域外からの担い手が参入しやすい環境をつくっています。市役所、但馬信用金庫、商工会、支援センターが緊密に連携し、相談の受付からマッチング、承継後の事業計画までサポートしています。

40年以上続く日本料理店を東京都の企業が引き継いだ例では、地域文化を守りながら新しい事業を組み込むという成果が生まれました。外部の力を導入しながら地域資源を保全するモデルは、人口減少地域における承継の一つの方向性を示しています。

兵庫県の成功は、「担い手の確保」と「地域内の連携」の両立によって実現したと言えます。


3 新潟県:金融機関・商工会・支援センターの連携による即応型モデル

新潟県では、地域の支援機関が迅速に連携する「即応型」の承継支援体制が整いつつあります。

岩室地域の自転車店では、経営者の急逝という予期せぬ事態に対して、妻が相談した金融機関がすぐに支援センターへ情報を共有し、商工会と連携して承継希望者とマッチングを行いました。わずか3か月という短期間で承継が成立した背景には、地域のネットワークが持つ強さがあります。

承継後は出張修理やカタログ販売にサービスを拡大し、地域の生活に必要な事業を継続させています。この事例は、地域金融と支援センターの連携が廃業リスクを最小化し、即応的な対応を可能にすることを示しています。

新潟モデルは「地域の生活インフラを守る承継」として、全国から注目されています。


4 東京都:複雑な都市型課題に対応する多機関連携モデル

東京都では、産業構造の多様性、企業規模の大きさ、契約や許認可の複雑さなど、都市特有の事情が存在します。このような環境では、単一機関の支援では限界があります。

そこで設置されたのが「東京チームサポートアシスト会議」です。信用金庫・信用組合、東京信用保証協会、事業承継・引継ぎ支援センター、中小企業活性化協議会が一堂に会し、企業ごとの課題を共有しながら承継ルートや支援策を検討する仕組みです。

この会議では、単に後継者を見つけるだけでなく、
・後継者教育
・販路開拓
・承継後の経営改善
などもセットで支援します。

都市型の第三者承継では、事業の内容が多様なため、複合的な支援が不可欠です。東京モデルは、こうした多角的な支援が必要な地域における先進的な取り組みといえます。


5 埼玉県:後継者育成と人材バンクを中心とした「担い手創出型モデル」

埼玉県は、第三者承継の成約件数が大きく伸びている地域のひとつです。特徴は、担い手を地域内で育てる取り組みに力を入れている点です。

埼玉県事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者向けの経営カリキュラムを独自に展開し、経営の基礎知識を身につけた人材を地域で育成しています。また、後継者人材バンクを運営し、事業を譲りたい企業と、事業を継ぎたい人材を結びつけています。

さらに、熊谷市にサテライトオフィスを設置し、県北や秩父地域などの相談アクセスを改善しています。地域間の距離が大きい埼玉県では、物理的なアクセス改善も承継の進みやすさに寄与しています。

埼玉モデルは「外部の担い手を呼ぶ」のではなく「地域内の担い手を育てる」ことに重点を置いている点が他地域と異なります。


6 地域モデルの比較から見えるもの

四つの地域モデルを比較すると、それぞれに特徴がありながらも、共通する成功の要素が見えてきます。

【共通点】

・複数機関の横断的連携
・課題を共有する定例会議がある
・担い手を確保する仕組みがある
・金融機関が積極的に関与している

【相違点】

・兵庫県:外部担い手の積極的な呼び込み
・新潟県:迅速な連携による即応型の承継
・東京都:多機関の高度な連携による都市型モデル
・埼玉県:後継者育成による担い手創出型モデル

地域の課題や産業構造に応じて、必要な承継モデルも変わります。重要なのは、「地域に適した承継インフラ」を整えることです。


結論

第三者承継が進む地域には、確かな共通点があります。それは「地域の機能が連携し、外部と内部の担い手を支える仕組みが整っていること」です。

兵庫県、新潟県、東京都、埼玉県の事例は、地域の条件に応じた多様なモデルが機能していることを示しています。外部担い手の誘致、即応型の連携、多機関連携、担い手育成など、地域が取り組むべき方向性はさまざまですが、共通する目的は「地域の事業・雇用・文化を未来につなぐこと」です。

人口減少と高齢化が進む日本では、第三者承継は地域再生の柱の一つになります。地域の支援体制が成熟し、承継を支える仕組みが整うことで、事業は新たな担い手のもとで再び成長する可能性を持っています。地域モデルの成功例は、全国の中小企業支援のヒントとなるはずです。


参考

・日本経済新聞(2025年12月6日)
・事業承継・引継ぎ支援センター資料
・中小企業庁「地域における事業承継支援の方向性」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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