中小企業の事業承継は、今や地域経済にとって避けることのできない課題になっています。経営者の高齢化が進む一方で、親族や従業員の中から後継者を見つけることが難しい企業が増えています。その結果、経営状況が健全であっても「後継者がいない」という理由で事業を畳む例が各地で見られるようになりました。
しかし近年、この状況を変える動きが全国で広がっています。親族や従業員ではなく、外部の個人や法人が事業を引き継ぐ「第三者承継」が増えており、地域に新しい担い手を呼び込む仕組みとして注目されています。この流れは単なる後継者不足の対応策にとどまらず、地域の文化、技術、雇用を守りながら事業を発展させる可能性を持っています。
本稿では、全国で広がる第三者承継の動きの背景と、兵庫県や新潟県などの事例をもとに、その価値と広がりを整理します。
1 第三者承継が増える背景
第三者承継が全国に広がりつつある理由は、主に三つあります。
第一に、親族承継が困難になっていることです。子どもが都市部に就職し地域に戻らない例は増えており、親族に後継候補がいない企業は年々増加しています。また、長時間労働や収益の不安定さから、家業を引き継ぐことに慎重になる若い世代も多くなっています。
第二に、従業員承継のハードルが上がっていることです。従業員が株式取得や借入を伴う承継に踏み切るためには、資金面・責任面の負担が大きく、候補者がいても実際に承継まで進まないケースが見られます。
第三に、事業承継を後押しする支援制度が整ってきたことです。国が設置した事業承継・引継ぎ支援センターは全国48か所に拡大し、相談やマッチングが標準化されました。金融機関や商工団体との連携も強まり、第三者承継を選ぶ企業が増えています。
これらの要因が重なり、事業承継は「親族に頼らない時代」へと確実に移行しつつあります。
2 兵庫県で広がる“外部の担い手”による継業
第三者承継の成約件数が最も伸びた地域の一つが兵庫県です。特に豊岡市の「継業バンク」は、地域ぐるみで事業承継を進める先進事例として注目されています。
継業バンクでは、後継者を必要とする事業者の情報をオンラインで公開し、地域外の担い手を積極的に募集しています。単に情報を掲載するだけではなく、支援センターが事業内容の整理や承継後の事業計画の方向性を助言する仕組みも整えています。
この取り組みの成果として、出石町で40年以上続いてきた日本料理店を東京都の飲食企業が承継した事例があります。新しい経営者は、地域の文化を尊重しながら仕出し事業を追加するなど、従来の経営資源を活かした発展を図っています。外部からの参入が地域文化を破壊するのではなく、むしろ保全と進化を両立させている点が特徴です。
兵庫県ではこのように、外部人材の活用と地域金融機関の支援が組み合わさり、第三者承継が広がりやすい環境が整っています。
3 新潟県に見る「地域金融×支援センター」の連携
新潟県では、地域金融機関と支援センター、商工会の協力体制が強化され、短期間での承継を実現させた事例が生まれています。
岩室地域の自転車店では、経営者の急逝により事業継続が困難になりました。しかし、妻が取引金融機関に相談したことで迅速に関係機関が動きました。金融機関から支援センターへ情報が共有され、専門家への無料相談制度が活用され、承継希望者と結びつきました。わずか3か月で承継が実現した背景には、地域のネットワークの強さがあります。
承継後、事業を引き継いだ企業は出張修理サービスなど新事業を展開し、地域の需要に応える形で事業を広げています。この例は、第三者承継が「地域のインフラを守る手段」として機能していることを示しています。
4 東京都の「アシスト会議」という多機関連携
都市型の第三者承継の代表例として、東京都の「東京チームサポートアシスト会議」があります。この会議には事業承継支援センター、信用金庫、信用組合、信用保証協会、中小企業活性化協議会が参加し、後継者不在企業の課題を共有しながら具体的な支援策を検討します。
都市部は取引先の数や契約形態が複雑であり、実務上の課題も多様です。そのため、金融機関だけでは対応が難しく、複数の専門機関が同じテーブルで支援策を議論する意義が大きくなります。
この仕組みにより、承継をきっかけに販路開拓や後継者教育を進めるなど、「承継後の成長まで支える体制」が整いつつあります。
結論
第三者承継は、地域にとって単に後継者を補う手段ではなく、外部の力を取り入れながら事業を進化させる取り組みになっています。親族承継が難しい現代において、事業の存続を守るための現実的で前向きな選択肢といえます。
兵庫県、新潟県、東京都の事例は、それぞれ異なる形で成功していますが、共通するポイントは三つあります。
1 地域金融機関が積極的に支援していること
2 支援センターや商工団体との連携が強いこと
3 外部の担い手を受け入れる仕組みが整っていること
これらがそろうことで、第三者承継は実現しやすくなり、地域の産業・文化・雇用を未来につなぐ力となります。
参考
・日本経済新聞(2025年12月6日)
・事業承継・引継ぎ支援センター資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

