消費税改正を読み解く(2026–2027)第5回 逆進性と給付措置:負担の公平性をどう再設計するか

税理士
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消費税には「逆進性」があると言われます。所得が低いほど、消費税の負担割合が相対的に大きくなるためです。社会保障の主要財源として消費税の位置づけが強まるほど、逆進性の緩和と制度の公平性をどう確保するかが重要な政策課題となります。

これまで日本では、軽減税率や給付金、臨時措置などを通じて逆進性への対応を行ってきました。しかし、制度の複雑化や効果の限定性が指摘され、2026〜27年度の税制改正では、より抜本的な見直しが議論される可能性が高まっています。

本稿では、消費税の逆進性がなぜ問題となるのか、現行制度の課題、そして今後検討される政策の方向性について整理します。

1 なぜ逆進性が問題になるのか

消費税の逆進性は次の理由から重要視されています。

(1)所得に対する負担割合が高くなる

低所得者ほど所得の多くを消費に充てるため、消費税負担が相対的に重くなります。
例:
・所得200万円:消費割合80% → 税負担率が高まりやすい
・所得800万円:消費割合60% → 税負担率は相対的に低い

逆進性は“税制の公平性”という観点で議論されます。

(2)消費行動や生活の質に影響

生活必需品に対する税負担が大きくなれば、家計の選択肢が狭まり、消費が抑制される可能性があります。

(3)将来の税率引き上げ時の政治的ハードル

消費税増税が困難になる大きな理由は逆進性の存在であり、これを緩和する仕組みが不可欠です。


2 軽減税率の効果と限界

現行制度では、食品や新聞に8%の軽減税率が適用されています。

(1)効果

・生活必需品の税負担を下げ、逆進性の緩和を図る
・消費税10%への移行を支える経過措置として機能

(2)限界

しかし、軽減税率には制度上の問題が多く存在します。

① 高所得者ほど恩恵が大きい

食品購買額は所得に比例して増えるため、軽減税率の減税効果は高所得層ほど大きくなりがちです。

② 対象品目が複雑

外食やテイクアウトなどでの税率判定は実務負担が大きく、制度の簡素性を損なっています。

③ 財政的負担が大きい

軽減税率は年間約1兆円規模の減収効果があり、社会保障の安定財源としての消費税の位置づけと矛盾が生じています。

2026〜27年度の議論では、軽減税率そのものの縮小・廃止がテーマになる可能性があります。


3 給付措置の現状:効果と課題

逆進性への対策として、政府は過去に次のような給付を行ってきました。

(1)臨時給付金

低所得者向けに数万円の給付を行う措置で、短期的な支援として機能します。

(2)子育て世帯向け給付

児童手当の拡充など、子育て家庭の負担軽減策が進められています。

(3)住民税非課税世帯向け給付

資力の低い世帯への直接支援が実施されました。

課題

しかし、これらの給付は「臨時」であり、制度として持続的な逆進性対策とは言えません。


4 給付付き税額控除の必要性

逆進性対策として最も有効とされるのが、「給付付き税額控除」です。

(1)給付と控除を一体化

所得に応じて税額控除を行い、所得が一定以下の場合は不足分を給付する仕組みです。
例:
・所得が低い → 税額控除に加え給付が発生
・所得が高い → 控除は限定的、給付なし

(2)欧米で広く導入

米国のEITC(勤労税額控除)や英国の税額控除制度は、
・就労支援
・逆進性対策
・貧困削減
に大きな効果をもたらしています。

(3)日本では未整備

制度設計が複雑で、所得情報のリアルタイム把握が課題となってきました。
しかし、マイナンバー・給与情報のデジタル化が進む現在、導入環境が整いつつあります。


5 消費税の逆進性を緩和する三つの政策パッケージ

2026〜27年度の議論では、次の三つの組み合わせが論点となる可能性があります。

① 軽減税率の縮小または廃止

制度簡素化と財源確保の観点から議論されます。

② 給付付き税額控除の創設

逆進性対策の中心的手法となる候補です。

③ インボイス制度との連動

透明性が増すことで所得把握が正確になり、給付制度との組み合わせが容易になります。

このパッケージは、「公平性」「簡素性」「財源確保」のバランスをとることが目的です。


6 将来の税率議論との関係

逆進性が解消されないまま税率引き上げを行えば、家計負担が増え格差が拡大する恐れがあります。そのため、税率議論には次の要素が必須になります。

(1)負担と給付の同時発表

税率引き上げと逆進性対策をセットで示すことで、家計に与える影響を抑えられます。

(2)制度全体の再設計

軽減税率・インボイス・給付措置が並列で議論されるのではなく、一体的に再構築される必要があります。

(3)世代間の公平性の確保

高齢者・現役世代・将来世代の負担と給付がバランスを取るよう設計されるべきです。


結論

消費税の逆進性は、単なる税の性質ではなく、社会保障の財源構造全体に関わる問題です。軽減税率の限界や給付措置の断片性が明らかになる中、2026〜27年度の税制改正では「給付付き税額控除」を中心とする抜本的な改革が議論される可能性があります。

消費税の公平性を高めることは、将来の税率議論を進めるうえでも不可欠です。逆進性の緩和、制度の簡素化、デジタル化との連動を図りながら、持続可能な税制を構築していくことが求められます。

次回(第6回)は、「消費税の非課税・免税の再設計:制度のゆがみをどう解消するか」を取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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