消費税改正を読み解く(2026–2027)第3回 インボイス制度の再評価:過重負担・益税問題・小規模事業者対策

税理士
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2023年に導入されたインボイス制度は、「取引の透明化」と「正確な消費税の仕入税額控除」を目的として設計されました。しかし、導入後の市場では、小規模事業者の負担増、特例制度の複雑化、免税事業者の扱いをめぐる不均衡など、制度の課題が次々に表面化しています。

2026〜27年度の税制改正では、インボイス制度の“本格的な見直し”が議論される可能性が高まっています。単なる事務負担の問題にとどまらず、益税問題、経済の二重構造、デジタル化の遅れ、税収の正確性といった、税制の根幹に関わる論点が含まれているからです。

本稿では、インボイス制度の現状と課題を整理し、今後検討される可能性のある改善策の方向性について解説します。

1 インボイス制度は何のために導入されたのか

制度の目的は大きく三つあります。

(1)取引の透明化

誰がどの税率で販売し、どれだけの消費税を支払っているかを明確にすることが狙いです。

(2)益税の発生を抑制

免税事業者が価格に消費税相当額を含めて販売し、その税額を国に納めない「益税問題」を改善するために設計されました。

(3)国際的な付加価値税制度への接近

欧州のVAT(付加価値税)ではインボイスが必須であり、国際基準への整合性も重視されています。

しかし、これらの目的を達成する過程で、制度は予想以上の負担を事業者に強いている側面があります。


2 導入後の実務負担:特に影響が大きかった層

インボイス制度はあらゆる事業者に影響しますが、とりわけ次の層が大きな負担を強いられています。

(1)小規模事業者

・記帳の義務化
・請求書様式の変更
・インボイス未発行時の取引の不利
など、業務負担の増加が顕著です。

(2)免税事業者

免税事業者は「インボイスを発行できない」ため、
・取引先から敬遠される
・値引きを要求される
・事実上の課税事業者化が進む
といった問題が生じています。

(3)取引先を多く抱える企業

仕入先のインボイスの確認作業が増え、経理部門の負担は大幅に増加しました。

制度導入後、事務負担を理由に経営を圧迫するケースも散見され、2026〜27年度の見直し議論につながっています。


3 特例制度の複雑化:本末転倒となる構造

インボイス制度には負担軽減のための特例がありますが、それらが逆に制度を複雑化させています。

(1)2割特例

免税事業者だった事業者は、売上消費税の2割を納付すれば良い制度が設けられました。しかし、
・制度の適用判断が難しい
・実態と乖離した税負担が生じる
など、運用上の課題が多く指摘されています。

(2)経過措置の多層構造

仕入税額控除は段階的に認められる仕組みになっており、

  • 2023年は80%
  • 2026年に20%へ
    など段階的な負担増となります。

この多層的なルールが、事業者・税務署双方の負担を増やしています。


4 益税問題の現状と限界

インボイス制度の重要な目的である「益税の解消」は、完全には達成されていません。

(1)制度導入後も残る益税構造

  • 免税事業者が発行する請求書
  • 2割特例の適用
  • 簡易課税の仕組み
    など複数の制度が残っており、益税は依然として一定規模存在すると見られています。

(2)益税の金額把握が困難

現行制度では益税の実態を正確に把握することが難しく、制度の透明性の観点から課題が残ります。

(3)「益税是正」と「小規模事業者保護」の対立

制度設計ではこの二つの価値が常に衝突します。
税制の公平性と経済活動の維持をどう両立させるかが今後の焦点です。


5 2026〜27年度の見直し論点:五つの方向性

インボイス制度の再評価では、次の五つの改善方向が検討される可能性があります。

(1)特例措置の整理・一本化

2割特例・経過措置・免税制度などの多層構造を整理し、簡素で透明な制度に再設計する方向性があります。

(2)小規模事業者向けの恒久措置の創設

欧州の付加価値税制度でも、小規模事業者向けの簡易制度が整備されています。日本でも、
・売上規模に応じた段階的課税
・簡易的な計算方式
などの導入が議論される可能性があります。

(3)インボイスの電子化・AI処理の義務化に向けた準備

紙のインボイスが制度を複雑にしている要因でもあります。将来的には、
・電子インボイス100%
・AIによる自動仕訳
が制度の前提になると見られます。

(4)免税制度そのものの再評価

益税の温床とされる免税制度について、
・段階的縮小
・所得基盤による新しい免税基準
などの抜本的見直しが議論される可能性があります。

(5)事業者負担と税収確保のバランス調整

制度見直しは負担軽減と税収減がセットの議論です。
財源確保の観点から、他の税制との連動が必要になる場面もあります。


6 制度再設計の鍵:透明性・簡素性・技術適応

インボイス制度は、単なる事務手続きではなく、消費税制度全体を支える基盤です。そのため、見直しには次の三つの視点が特に重要です。

(1)透明性

誰がどれだけの税負担をしているかを明確にし、制度への信頼性を高める必要があります。

(2)簡素性

制度が複雑なほど、事業者の実務負担は増え、税務コストが経済活動を阻害します。
軽減税率の見直しとも密接に関わります。

(3)技術適応

AI・電子帳簿保存法・電子インボイス義務化など、デジタル前提の制度へ更新することが重要です。


結論

インボイス制度は、消費税の透明性と公平性を高めるために導入されましたが、実際には小規模事業者の負担増や制度の複雑化など、見直しが避けられない課題が明らかになっています。2026〜27年度の消費税改正議論では、
・特例措置の整理
・免税制度の抜本的見直し
・電子化とAIの前提化
・制度全体の簡素化
といった多方面からの改革が求められます。

次回(第4回)は、「税率10%のままで持続可能か:社会保障財源との関係」を取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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