税制改正2026を読み解くシリーズ 第6回 地方財政への影響:自動車税・利子割・税源配分の再考

税理士
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2026年度税制改正は、国レベルの制度変更だけでなく、地方財政にも大きな影響を及ぼす内容が多く含まれています。環境性能割の停止、自動車税制の再構築、EVシフトによる税収構造の変化、インフラ老朽化への対応、そして預金利子にかかる地方税「利子割」の偏在是正――いずれも地方自治体の財務基盤と密接に結びついています。

特に地方は、道路維持費・少子高齢化対応・社会保障関連支出などの増加に直面しており、税収の安定性がこれまで以上に重要です。本稿では、自動車税制改革と税源配分の問題を軸に、地方財政が抱える構造的課題と2026年度改正がもたらす影響を整理します。

1 自動車関連税制は地方税の柱

自動車税制の中には、地方税として自治体の財源を支える重要な税目があります。

(1)自動車税(種別割・環境性能割)

  • 都道府県税として安定的な収入源
  • 特に環境性能割は新車販売に連動するため景気変動の影響を受けやすい
  • EVの非課税措置や購入台数の減少により税収は減少傾向

(2)自動車重量税

  • 本来は国税ですが、道路財源として地方に配分される仕組みがあります
  • 道路補修・橋梁維持の財源として重要

(3)ガソリン税

  • 国税だが地方道路財源として一定部分が地方へ
  • EV普及により税基盤が縮小する可能性

自動車関連税は地方財政における「安定財源」として位置づけられてきましたが、EV化や政策変更で構造が揺らいでいます。


2 環境性能割の2年間停止が与える地方への影響

政府・与党は検討段階として「環境性能割の2年間停止案」を示しています。これは自動車購入時に課される地方税であり、停止すれば自治体の収入は大きく減少します。

(1)自治体によって影響が大きく異なる

  • 自動車販売が多い都市部や地方の中核都市では税収減が顕著
  • 一方で自動車産業を持つ地域では振興効果も期待

(2)国の財源補填が不可欠

環境性能割は自治体の基幹財源のひとつであり、単純な停止は地方財政に大きな穴をあけます。補填措置がなければ、自治体の投資やサービスが縮小しかねません。

(3)制度自体の存在意義が再問されている

燃費性能に応じた課税は環境誘導策として機能してきましたが、EV非課税とのバランスや産業政策との調整が求められています。


3 EV化と地方財政:税収減少の構造

EV普及は環境政策として重要ですが、地方財政にとっては税収減少をもたらす可能性があります。

(1)EVは購入税・保有税の負担が軽い

  • 環境性能割は非課税
  • 重量税の優遇措置
  • ガソリン税を払わないという構造的問題

ガソリン税が減少すると、道路財源として地方に回る税収も減少します。

(2)走行距離に応じた新課税の必要性

EVが主流になれば、現在の税体系では道路利用に対する負担が不十分になります。走行距離課税(Mileage Tax)は将来的な選択肢として議論が進む可能性があります。

(3)地方のインフラ維持費は増加傾向

老朽化した道路・橋梁の補修は待ったなしの状況です。税収が減るほど維持管理が困難になり、地方の財政運営に深刻な影響を与えます。


4 利子割偏在の是正:東京都一極集中からの転換

2025年の議論で注目されたのが、預金利子に課される地方税(利子割)の偏在です。

(1)税収の多くが東京都に集中

ネット銀行普及により、居住地に関係なく東京都に税収が偏る構造が生まれました。

(2)本来は「居住地に応じて税収が配分されるべき」

利子割は住民税の一部であり、本来は住んでいる自治体が受け取るべき税金です。制度と実態が乖離している点が問題視されています。

(3)是正案

所得関連データを用いて税収を再配分する仕組みが検討されています。これは自治体間の公平性を回復する制度となります。


5 道路インフラと地方財政:見えない負担の増大

日本各地の道路インフラは、今後数十年にわたり集中的な更新が必要とされています。

(1)老朽化の加速

高度成長期に整備された道路・橋梁が一斉に寿命を迎える時期にあります。

(2)補修費用の増加

財政的に余裕のない自治体では、必要な補修が後回しになることもあります。放置すれば補修費がさらに増大し、財政負担が重くなります。

(3)自動車関連税収の減少との矛盾

EV普及は脱炭素の観点から重要ですが、道路維持費を賄う財源を縮小させるという矛盾が存在します。


6 地方財政を持続可能にするための方向性

2026年度税制改正の議論から見えてくる地方財政改革の方向性は次のとおりです。

(1)安定財源の確保

地方税の基盤を強化するために、自動車税制の再編は避けて通れません。

(2)目的税の透明化

道路財源・防衛財源など、目的税の使途と配分を明確にすることで自治体の計画性が高まります。

(3)税源配分の適正化

都市部への税収集中を是正し、地方の基盤を維持するための再配分が重要です。

(4)走行税を含む新税体系の検討

EV普及が進めば、走行距離に応じた課税を導入する国も増えており、日本でも長期的な検討課題となります。

(5)インフラ維持費の長期計画

短期的な補修だけでなく、40〜50年先を見据えた長期維持計画が不可欠です。


結論

2026年度税制改正は、地方財政の基盤を揺るがす大きなテーマを包含しています。環境性能割の停止、EV普及による税収構造の変化、利子割の偏在是正、道路インフラ維持の課題――いずれも地方の持続可能性と密接に関わっています。

税制の見直しは負担の分配だけでなく、地域間の公平性やインフラの安全性を左右する重要な政策です。地方が安定的に行政サービスを提供し続けるためには、税源配分の見直しと制度の透明性がこれまで以上に求められます。

次回(第7回)は「企業への影響:防衛増税・EVシフト・賃上げとの関係」を取り上げます。


参考

日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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