2026年度税制改正に向けた議論の背景には、「税制の公平性」をめぐる大きなテーマがあります。扶養控除縮小、防衛財源としての所得税上乗せ、自動車税制の再設計――これらはいずれも個別政策のように見えますが、実際には「誰がどれだけ負担すべきか」という根本的な問題と直結しています。
税制の公平性は、単に高所得者と低所得者の比較だけでは語れません。控除・給付・税率構造・目的税の取り扱いなど、複数の制度が重なり合って全体のバランスを形づくります。本稿では、税制の公平性に関する基本的な考え方を整理し、2026年度改正で問われている構造的論点を明らかにします。
1 公平性の三つの視点
税制の公平性を考える際には、大きく次の三つの視点があります。
(1)負担能力に応じた公平性(垂直的公平)
所得が多い人ほど多く負担するべきという考え方です。所得税の累進構造はこの思想にもとづいています。
(2)同じ状況の人は同じ負担をすべきという公平性(水平的公平)
同じ所得でも家族構成・障害の有無・医療費負担などによって生活水準が異なるため、一定の調整が必要となります。扶養控除や医療費控除はこの視点から設計されています。
(3)世代間の公平性
高齢化が進む中、現役世代の負担が過度に増えれば制度そのものの持続性が損なわれます。社会保障費が増え続ける中で、税制をどう組み直すかが重要です。
2026年度改正では、これらの視点すべてが同時に問われています。
2 控除制度の見直しと逆進性
扶養控除などの所得控除は、対象者の所得から一定額を差し引く仕組みです。しかし所得が高いほどメリットが大きくなるという特徴があります。
(1)控除の逆進性
例えば、控除額が同じ38万円でも、税率が20%の世帯では7.6万円の減税、税率5%の世帯では1.9万円にとどまります。結果として、控除は高所得層に相対的に有利に働きます。
(2)児童手当拡大後の不整合
給付が拡大する一方で控除が維持されると、「高所得者がより多くの支援を受ける」という矛盾が生じます。これが扶養控除縮小の主な背景です。
(3)控除の整理は公平性の再設計
控除を見直すことは「負担を増やす」というより、「制度全体のバランスを取り直す」という意味合いが強くなります。
3 給付と税制の関係
税制の公平性を考える上では、給付制度との関係も避けて通れません。
(1)給付は必要な層に支援を届ける役割
児童手当や授業料無償化は、子育て世帯の生活を支える重要な給付制度です。所得にかかわらず支給される仕組みは、社会的な下支えとして強い効果を持ちます。
(2)税制と給付の二重構造
給付が増え続ける中、控除が残ると制度が複雑化し、支援がどの層にどの程度届くのかが不明瞭になります。
(3)給付付き税額控除という選択肢
海外では広く採用されており、低所得者層まで確実に支援が届く点で評価されています。日本でも中長期的な制度改革の論点として位置づけられます。
4 目的税の扱いと税制の透明性
目的税とは、特定の費用を賄うために使途が定められた税のことです。復興特別所得税、防衛財源、道路関連税などが該当します。
2026年度改正では、目的税の扱いが税制の信頼性と直結する重要な論点となっています。
(1)目的税の付け替えの難しさ
復興特別所得税の一部を防衛財源に振り向ける案は、単なる財源調整ではなく、税制に対する信頼性の問題を伴います。
(2)透明性の確保
目的税は「何に使われるのか」が明確であることが前提です。目的を変更する場合は、納税者に対して丁寧な説明が必要です。
(3)財政需要の変動に対応する柔軟性
社会保障費、インフラ維持費、災害対策費など、多様な財政需要が存在する中で、目的税をどう管理するかは今後の重要課題です。
5 公平性をめぐる具体的な論点
2026年度税制改正の議論は、以下のような具体的問題に集約されます。
(1)児童手当と扶養控除の整合性
給付を充実させるなら、控除の逆進性を調整する必要があります。
(2)防衛財源と所得税の負担
所得税1%上乗せ案は、どの所得層にどの程度の負担が発生するかという公平性の議論を避けて通れません。
(3)自動車税制での技術中立性の確保
EVだから軽く、ガソリン車だから重くという単純な区分ではなく、道路負担や環境負荷も踏まえた公平な指標が必要です。
(4)世代間負担の問題
道路インフラの老朽化、社会保障費の増大、防衛費の増加など、将来世代に負担を先送りしない仕組みづくりが求められています。
6 将来を見据えた税制改革の方向性
公平性を考える際、重要なのは「結果の公平」ではなく「制度の整合性」です。2026年度改正の議論から見えてくる方向性は以下の通りです。
(1)控除から給付へのシフト
これにより所得再分配がより明確になり、支援の方向性が整理されます。
(2)負担の分かりやすさ
制度が複雑になるほど負担の実感が薄れ、不公平感が増します。税制簡素化は公平性向上にもつながります。
(3)持続可能な財源確保
防衛、インフラ、社会保障。いずれも長期的な財源が不可欠であり、税制全体の再設計が必要です。
(4)透明性の向上
目的税の扱いや税収の使途について、より丁寧な説明が求められます。
結論
税制の公平性とは、単に負担の重さを比較することではなく、税制・給付・目的税がどのように組み合わさって国全体の制度を形づくっているかを理解することにあります。控除の整理、防衛財源、走行税の議論など、2026年度改正の多くの論点は「制度全体をどのように整えるか」という根本的な課題を示しています。
次回(第6回)は「地方財政への影響:自動車税・利子割・税源配分の再考」を取り上げます。
参考
日本経済新聞など関連資料をもとに再構成。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
