2026年度の税制改正は、これまでの延長線で語れる内容に収まりません。防衛力強化のための財源確保、児童手当拡大に伴う扶養控除の見直し、自動車関連税制の再構築という、長年議論されながらも結論が出なかった三つの重要テーマが同時に動き始めています。加えて、政権の体制変更や与党税制調査会の体制刷新も重なり、「これまでの先送りが許されない局面」に入ったといえます。
税制改正は単なる税率変更や控除の増減ではなく、社会全体の価値観をどのように制度化するかという大きなテーマと関係します。財政需要が増大する中で、誰がどのように負担し、どこに資源を振り向けるのか。その判断は家計・企業・地方自治体に大きな影響を及ぼします。
本稿では、税制改正2026の大枠を整理し、注目すべきポイントを俯瞰します。シリーズ全体の導入となる回として、今の議論がどこに向かっているのかを見通すことを目的とします。
1 税制改正2026が「例年と違う」理由
税制改正は毎年行われますが、2026年度は特に大きな意味を持ちます。その背景には次の3点があります。
(1)財政需要の急拡大
防衛力強化、子育て・教育支援、インフラ老朽化対策、脱炭素政策。いずれも中長期的な投資が必要で、歳出の増加は避けられません。社会保障費も増え続ける中で、既存の税収で賄うことは難しく、持続可能な財源の確保が求められています。
(2)税制調査会の体制刷新
税制調査会は税制設計の「司令塔」にあたりますが、今回の人事異動により、従来とは異なる判断基軸が示される可能性があります。これまで慎重論が強く結論に至らなかった論点に対し、前進する可能性があります。
(3)積年の懸案が同時期に期限を迎える
環境性能割の期限、高校授業料無償化の本格実施、防衛財源の決定時期など、複数の政策タイミングが同時に訪れます。制度間の整合性を取り直す必要が生じ、個別対応が難しくなっています。
このように、2026年度改正は「個別の税制改正」ではなく、「制度再設計」の色合いが強まっている点に特徴があります。
2 三つの懸案が動き始めた背景
2026年度改正の中心テーマとして挙げられるのが以下の3つです。
- 防衛財源としての所得税の扱い
- 児童手当拡大に伴う扶養控除の見直し
- 自動車関連税制の抜本的再検討
これらは共通して「国の政策目的が大きく変化したこと」に起因しています。
(1)安全保障の環境変化
国際情勢が不安定化する中、防衛力強化は政府の優先課題となりました。防衛力の質的・量的向上には継続的な財源が必要で、税制改革は避けて通れません。
(2)子育て・教育政策の拡充
児童手当の対象拡大や高校授業料の実質無償化など、教育分野の給付が急速に増えています。これまで控除で支援してきた部分を給付中心に再編する流れが強まっています。
(3)脱炭素・EV化とインフラ維持費
ガソリン車からEVへシフトが進む中、自動車関連税の税収構造が変化しています。EVは排ガスを出さない一方、車体重量が大きいため道路への負担が増えるといった新しい論点も浮上しています。
これらを踏まえると、三つのテーマは単発の議論ではなく、「政策環境の大きな転換」を象徴していることがわかります。
3 税制改正2026の注目点
ここでは、制度再設計を考える上で重要な視点を3つ挙げます。
(1)税と給付の一体改革が問われる
扶養控除と児童手当の関係は、税制と社会保障の役割分担の議論と表裏一体です。給付を手厚くするのであれば、控除を見直すことで財源と分配の公平性を確保する必要があります。
同様に、インフラ維持費と自動車税制の関係を整理するには、目的税・一般財源の位置付けを再確認する必要があります。
(2)負担構造の変化に対する納得感
所得税の付け替え、防衛財源、ガソリン税の見直しなど、負担の在り方が議論の中心になります。増税か否かではなく、どの層がどのくらい負担し、どの政策目的に活用されるのか。透明性と一貫性が求められます。
(3)環境政策・産業政策との整合性
自動車産業は日本の基幹産業であり、税制改正は企業の投資判断にも影響します。EV化と国内生産の維持、インフラ費用の確保、脱炭素の方向性をどう両立させるかが重要です。
税制改正2026は、財政・社会保障・環境政策・産業政策が交差する複合的なテーマとなります。
4 「税制改正は社会の価値選択」という視点
税制は単に税収を集める仕組みではありません。社会としてどの価値を優先するかを制度に落とし込んだものです。
たとえば、
- 防衛を重視するか
- 子育て支援を手厚くするか
- 脱炭素と産業競争力をどう両立させるか
- 高所得層の控除や優遇措置をどこまで見直すか
これらはすべて社会の価値選択です。
税制改正2026は、この「価値選択」を明確に問う内容となります。国全体の方向性を形づくる重要な改正であり、制度の持続可能性がこれまで以上に重視される局面といえます。
結論
税制改正2026は、単なる税率調整ではなく、社会の制度設計そのものを見直す大きな転換点になります。防衛、子育て、自動車、インフラ、脱炭素など、多様な政策目的が同時に動いているため、税制を総合的に捉える視点が必要です。
シリーズ第2回以降では、それぞれのテーマをより深く掘り下げ、制度の具体像と論点を順番に整理していきます。
次回は「防衛財源としての所得税:何がどこまで動くのか」を取り上げます。
参考
日本経済新聞「税制改正、積年の3懸案」2025年12月5日ほか関連資料をもとに再構成。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
