フリーランス法から1年、広がる働き方をどう守り育てるか

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フリーランスとして働く人が増えるなか、2024年に施行された「フリーランス法(特定受託事業者保護法)」は、日本の働き方にとって大きな転換点になりました。発注側との取引で弱い立場になりやすいフリーランスを守り、安心して働ける環境を整えることが目的です。施行から1年が経過し、現場では一定の改善が進む一方、新しい課題も浮かび上がってきています。

フリーランス人口は2020年時点で約462万人。新型コロナウイルス禍を経て、独立・副業・プロジェクト型の働き方は広がり続けています。今後も労働力人口の減少や企業の即戦力志向が進むなかで、フリーランスは日本経済の重要な担い手になることが予想されます。

その意味でフリーランス法は、単なる取引ルールの整備にとどまらず、新しい労働市場の基盤づくりを担う存在と言えます。本稿では、施行1年の成果と課題を整理しつつ、これからの改善点、そして制度を活かすために必要な視点を考えていきます。

1. フリーランス法1年で見えた成果

施行後、現場ではいくつかの前向きな変化が見られます。

(1)報酬の支払期日が明文化され、未払い・遅延が減少
法により、発注者は合理的な範囲で支払期日を定めることが義務づけられました。これまで多かった「いつ支払われるかわからない」状態が改善され、フリーランスが資金繰りに悩まされるケースは減少しつつあります。

(2)契約内容の明示が進み、取引の透明性が向上
従来の「口約束」が残る業界でも、業務内容や成果物、金額、範囲を文章で残す企業が増えました。企業側の社内体制整備が進み、結果としてトラブル予防につながっています。

(3)行政による指導・勧告の動きが市場の抑止力に
大手企業への勧告や契約書面化の促進など、行政の姿勢が明確になったことで、制度全体の信頼性は高まっています。「曖昧な取引が許されにくくなった」という声も多く聞かれます。


2. 一方で残る課題

成果が見られる一方、現場では乗り越えるべき課題もあります。

(1)依然として残る契約書未締結の商慣行
クリエイティブ業界、IT業界などでは、スピード重視の文化から契約書が交わされないケースが残っています。この状況では、法の趣旨が十分に生きません。

(2)中小企業・スタートアップのリソース不足
制度に沿った契約書の整備や社内プロセスの変更には一定の労力が必要です。小規模企業では担当者が不足し、形式整備が追いつかないといった声は少なくありません。

(3)フリーランス側の法意識・契約リテラシー不足
フリーランス自身が契約の重要性を理解できていない場合もあります。特に駆け出しのフリーランスほど弱い立場に置かれやすく、法の保護が届きにくい仕組みになっています。

(4)偽装フリーランス問題という構造課題
業務委託の形をとりながら、実態は雇用と変わらない働き方(時間拘束・専属義務)が求められるケースがあります。雇用か委託かの判断は難しく、法の適用範囲も曖昧な部分が残っています。制度の「グレーゾーン」として今後の政策課題の中心になるでしょう。


3. 今後必要となる改善と制度の進化

フリーランス法は、今後の労働市場の変化を踏まえながらアップデートしていく必要があります。

(1)周知徹底と契約リテラシーの教育
制度を機能させるためには、「知っているかどうか」が決定的に重要です。
・フリーランス向け:契約書のポイント、報酬決定プロセス、トラブル対策
・企業向け:法令順守、契約実務、適正な取引基準
こうした教育機会を継続的に提供する仕組みが求められます。

(2)社会保障制度との接続強化
今後、フリーランス人口が増えるにつれ、働き方ごとのリスクが顕在化します。
例えば、
・収入の急変
・病気や育児・介護期の支援
・老後の所得保障
現在の国民健康保険・国民年金だけでは不十分なケースもあり、新しいセーフティーネット設計が焦点になります。

(3)偽装フリーランスの判断基準の明確化
雇用か委託かの判断は、個別事案ごとに線引きが難しい領域です。今後は行政による指針や判例の蓄積が必要です。企業にとってもフリーランスにとっても「どの働き方が適正なのか」を判断できる環境づくりが求められます。

(4)フリーランスエージェントの役割強化
マッチングサービスやエージェントは、市場の橋渡し役として重要性が増しています。
・契約書の標準化支援
・法令順守の啓発
・トラブル時の相談窓口
・キャリア支援
これらを通じて、制度の実効性向上に貢献できます。


4. フリーランスを「人的資本」としてどう評価するか

労働力人口が減少する日本では、フリーランスは重要なリソースになりつつあります。単なる外注先ではなく、企業成長を支える人的資本として位置づける視点が欠かせません。

企業にとっては、
・専門人材を柔軟に活用できる
・固定費を抑えつつスキルを確保できる
というメリットがあり、フリーランス側も
・働く場所や時間の自由
・個人のスキルを直接価値に変えられる
といった魅力があります。

市場全体を健全に育てるためには、企業・フリーランス双方が対等な立場で協力できる環境づくりが必要です。その基盤づくりこそ、フリーランス法の本質的な役割といえます。


結論

フリーランス法の施行から1年、制度は一定の成果を上げていますが、まだ改善すべき領域は多くあります。契約の透明化、社会保障、偽装フリーランス問題など、フリーランス市場が本格的に拡大するほど制度の重要性は増していきます。

制度をただ整えるだけでは不十分で、「制度と現場のギャップ」を埋める取り組みが求められます。企業・フリーランス・エージェント・行政が連携し、働き方の多様化を支える新しいインフラとして発展させることが、これからの日本経済にとって重要な柱になります。

フリーランスが安心して能力を発揮できる環境が整えば、企業の競争力向上や地域経済の活性化につながり、日本全体の生産性向上にも寄与します。フリーランス市場の健全な発展は、日本の未来を支える大きな可能性を秘めています。


参考

・日本経済新聞「フリーランス法の実効性高めよ」(2025年12月5日朝刊)
・総務省「我が国のフリーランス人口調査」
・厚生労働省資料(フリーランス保護法関連)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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