社会保障の将来を見据えた「インデクセーション」と制度調整の方向性

政策

日本の高齢化は今後もしばらく続きます。社会保障制度の多くは賦課方式を基盤としているため、賃金に連動したインデクセーション(調整)だけでは、給付と負担のバランスを維持することが難しくなっています。

制度を持続させるためには、給付対象の絞り込みや支え手の拡大といった、より構造的な視点が必要です。この記事では、社会経済の変化を踏まえた制度調整のあり方を整理しつつ、インデクセーションがどのように役割を果たすのかを考えていきます。

1. 賦課方式の限界が見えてきている

賦課方式は、現役世代が納める保険料で高齢者の給付を賄う仕組みです。そのため、人口構成が安定していれば、賃金上昇率に合わせたインデックス調整を行うことで制度を維持できます。

しかし日本では、

  • 少子化による支え手の減少
  • 長寿化による給付期間の延び

が同時に進み、賃金インデックスだけでは対応しきれない状況です。制度の持続性を確保するには、給付と負担の関係そのものを見直す必要があります。


2. 代表的な調整方法は「支給開始年齢の引き上げ」

インデクセーションを応用した制度調整の一例が、年金支給開始年齢の引き上げです。

支給開始年齢を平均寿命の伸びに合わせて引き上げることで、次の効果があります。

  • 給付期間が短縮される
  • 労働市場での支え手が増える
  • 給付水準を維持しやすくなる

米国や英国でも支給開始年齢を67歳へ段階的に引き上げています。日本だけが特別なのではありません。


3. マクロ経済スライドだけでは限界がある

現行制度では、マクロ経済スライドが平均寿命の伸びと支え手の減少を調整しています。しかしこの仕組みは、

  • 受給者全体の給付水準を一律に引き下げる
  • 社会的に保障すべき最低水準を下回る可能性がある

という弱点があります。

給付水準が極端に低くなることを避けたい場合には、給付対象そのものを見直し、保障すべき層を絞りながら水準を維持する必要があります。


4. 「65歳=高齢者」という前提の見直し

多くの社会保障制度は65歳以上を高齢者としています。しかし、平均寿命は延び、65歳時点の健康状態はかつてとは大きく変わっています。成人年齢が18歳へ引き下げられたように、高齢者とされる年齢を引き上げることは十分に検討の余地があります。

年金だけ年齢を上げると制度間で不整合が起きやすいため、

  • 年金
  • 高齢者医療
  • 介護保険

といった制度を横断的に調整することが必要です。


5. 年齢の引き上げには長い準備期間が不可欠

支給開始年齢の引き上げは、政策的に大きな影響を持つため、短期で実施すべきものではありません。

  • 日本は12年間かけて支給開始年齢を引き上げた
  • 米国や英国は20年以上の期間を設定

といった例が示すように、制度改正には長期的な移行期間が必要です。

人生設計や企業の人事制度に影響するため、国民が事前に生活設計を見直せるような十分なアナウンスが欠かせません。


6. 給付対象の絞り込みも、早期の議論が重要

高齢化が進む中では、給付範囲の絞り込みも避けられません。高齢者医療や介護制度では、一律の給付削減が難しい分野も多く、対象範囲や負担のあり方を再設計する必要が出てきます。

インデクセーションは比較的受け入れられやすく、政治的対立を避ける効果がありますが、それだけで乗り切れる時代ではありません。


結論

インデクセーションは、社会経済の変化に応じて制度の実質的価値を維持するための有効な仕組みです。しかし、それはあくまで最低限の調整にとどまり、少子高齢化が進む日本では、より本質的な見直しが求められます。

  • 支給開始年齢の引き上げ
  • 給付対象の再設計
  • 世代間の役割分担の見直し

これらは時間をかけて進めるべき大きなテーマです。将来を見越して早期に議論を始め、生活設計や企業の制度調整が円滑に行われるよう、丁寧な制度運営が求められています。


出典

・日本経済新聞「持続可能な社会保障(9) 将来を見越した議論が重要」
・厚生労働省資料(年金・医療・介護制度関連)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました