中小企業が直面する「新しい税務リスク」 AI時代に求められる実務ポイント

税理士
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AIの活用により、国税庁の税務調査がこれまで以上に精度とスピードを高めています。特に2024事務年度には、AIが選別した約49万法人から最終的に約5万3000件が調査対象となり、追徴税額は過去最多の3811億円に達しました。
この流れの中で影響が最も大きいのは、資本金1億円未満の中小企業です。

従来は「調査に当たらなければ大丈夫」という意識が根強いところもありましたが、AIが“数字の異常値”や“説明困難な動き”を瞬時に抽出するようになったことで、意図せぬところでリスクが顕在化する企業が目立ち始めています。

本稿では、中小企業が今まさに直面しつつある“新しい税務リスク”の具体像と、税務調査に耐えうる実務ポイントについて解説します。

AI時代の税務リスクは「故意」だけではない

税務リスクというと架空経費や売上除外のような“悪質な不正”を思い浮かべがちですが、近年の傾向を見ると、
「故意でないが、結果として否認される」ケースが増加しています。

理由はシンプルです。

  • AIは“怪しい動き”を感情抜きで検知する
  • 取引の実態よりもデータの整合性が先にチェックされる
  • 証拠の薄い取引は、悪意がなくても「不自然」と判定される

つまり、
「悪意かどうか」ではなく、「説明できるかどうか」が問われる時代になっているということです。

例えば、

  • 仕入と売上の時間差が大きい
  • 月次の原価率が急変している
  • 経費の増減が売上と連動していない
  • 特定の外注先に支払いが偏っている
  • 現金取引が突出している

これらはいずれもAIの抽出対象になりやすく、説明不足だと調査につながる可能性があります。

中小企業に多い“無自覚なリスク”とは

① 契約書がない(または形骸化している)

小規模企業では、契約書なしで口頭のまま外注取引を進めるケースが少なくありません。

問題は「実態があっても証拠がない」と、
架空外注や業務委託の水増しを疑われやすいことです。

AIは数字の中から「不自然な外注費の増加」を抽出します。
そこで契約書や仕様書、成果物のエビデンスが乏しいと、調査が一気に厳しくなります。

② 役員経費と会社経費の線引きが曖昧

特に家族経営の中小企業に多いのが、

  • 車両費
  • 交際費
  • 旅費交通費
  • 役員報酬周りの不整合

AIは数字の傾向を解析するため、前年との比較で突出した動きがあると必ず“気付きます”。

「たまたま支払っただけ」
「去年と用途が違うだけ」

という説明では通らず、
客観的な基準での経費区分が求められます。

③ 電子帳簿保存法対応が不十分

多くの企業でPDFや画像の保管が始まりましたが、以下のような課題が残っています。

  • 改ざん防止措置が未設定
  • フォルダ管理が雑で検索性が悪い
  • データ保存の規定が社内で統一されていない
  • 電子データと紙が混在し整合性が取れない

これらはAIが検知する“データの異常値・抜け”につながり、調査リスクを引き上げます。

④ 仕訳の根拠が残っていない

会計ソフトで自動仕訳が普及した結果、入力は効率化されましたが、
仕訳の根拠となる証拠書類が残っていないケースが増えています。

AI時代では、
「正しく入力されていること」よりも
「正しく説明できること」が評価されます。

この差が非常に大きくなっています。

AI時代に求められる“税務耐性”の高い経理

① 月次決算の精度向上

月次段階で以下を確認できる体制が理想です。

  • 売上と原価の連動
  • 原価率・粗利率の変動理由
  • 経費の増減理由
  • 部門別・プロジェクト別の収支

AIに先に気付かれるのではなく、
企業自身が数字の変動を説明できる状態を整えることが重要です。

② 証跡保管の標準化

外注・仕入・経費のすべてについて、以下を揃えることを推奨します。

  • 契約書
  • 見積書・発注書・請書
  • 納品書・成果物
  • 業務ログ(メール・チャット・写真など)
  • 振込記録
  • 相手先の実在性が確認できる情報

これらの整備は、調査の際だけでなく、
取引トラブル防止や内部統制強化にも直結します。

③ AIに「正しく判断してもらう」発想

AIはデータが整っている企業ほど“問題なし”と判断しやすく、
逆にデータが欠落している企業ほど“要精査”と判断します。

つまり、
企業が正しく評価されるための準備
という発想が必要になってきています。

④ 顧問税理士との連携の質を高める

AIの目線に近い視点を持つことで、

  • “誤解されやすい数字”
  • “説明が必要な取引”

を事前に洗い出すことができます。

税務顧問の役割は
“申告書を作ること”から
“企業をAI分析の誤検知から守ること”
へと進化していると言えます。


結論

AIの本格導入により、税務調査は「効率化」だけでなく「定量的分析」へ大きく舵を切りました。
特に中小企業は、悪意のないミスや証拠不足が“説明できない不自然さ”として抽出される可能性が高まっており、従来の感覚では通用しない局面が増えています。

求められるのは、

  • 透明性
  • 証跡の一貫性
  • 数字の説明可能性
  • 月次段階での自己チェック体制
  • 電子化への適応

これらを整えた企業は、AIによる評価も安定し、調査リスクは大きく下がります。

AIは敵ではなく、整った経理にはむしろ“防御力”を与える存在です。
ひとり税理士としても顧問先に伝えるべきメッセージは、
「AI時代は、経理の整備が最大のリスクヘッジになる」
ということに尽きます。


参考

・国税庁 2024事務年度 法人等の調査状況
・国税庁「税務行政におけるAI分析の活用」資料
・日本経済新聞報道(2025年12月)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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