政府・与党が「環境性能割(自動車購入時に課される地方税)」を2年間停止する案を軸に検討していることが注目されています。
背景には、米国による自動車関税の影響を受ける日本の自動車産業を下支えする狙いがあり、税と環境政策の両立という難しい課題が潜んでいます。
環境性能割は燃費性能に応じて0~3%が課税される仕組みで、電気自動車(EV)は非課税。環境負荷の少ない車種を選ぶ誘因としてこれまで一定の役割を果たしてきました。
しかし、自動車業界の経営環境が不安定化する中で、税負担の軽減を求める声も強まっています。
この記事では、
- 環境性能割を停止するという案の背景と狙い
- 自動車ユーザーへの影響
- 地方財源や環境政策との兼ね合い
- 今後の税制議論の焦点
を専門的な視点から、わかりやすく整理します。
1. 環境性能割とは何か
環境性能割は、もともと「自動車取得税」を廃止する際の代替財源として導入された地方税です。自動車購入時に1回だけ課税され、燃費性能などに応じて0〜3%の税率が適用されます。
主なポイントは次のとおりです。
- 環境性能に優れるほど税率が低い(EV・FCVは非課税)
- 税収はすべて地方税(都道府県・市町村の財源)
- 2025年度計画ベースで普通車・軽自動車合わせて約1,900億円の税収規模
- 自動車税のグリーン化、重量税のエコカー減税などと並び「環境政策」要素を持つ税目
つまり単なる“取得税”ではなく、「より環境負荷の少ない車を購入するよう誘導する役割」を担ってきました。
2. なぜ2年間の停止案が浮上したのか
今回、停止案が浮上した最大の理由は自動車産業への支援です。
●(1)米国による自動車関税の影響
米国の対日輸入車関税が強化され、日本車メーカーは価格競争力を削がれつつあります。輸出依存度の高い日本の自動車産業は、国内での販売を確保する必要が増しています。
●(2)円安・金利上昇・素材高の“三重苦”
- 円安による部品輸入コストの上昇
- 半導体などの供給制約
- 鉄鋼・アルミなどの原材料価格高騰
これにより各社の収益が圧迫され、国内販売促進策が求められています。
●(3)購入時の負担感が強い現状
自動車は取得時に、
- 環境性能割
- 自動車重量税
- 自動車税種別割(旧自動車取得税の一部)
など複数の税負担が発生します。
特に環境性能割は購入価格の数%が上乗せされるため、心理的負担が大きいとの指摘が多く、販売現場からも「減税による後押し」を求める声が強くあります。
こうした状況を総合し、政府・与党では「当面の2年間、環境性能割を停止する案」が検討されています。
3. 停止された場合、自動車ユーザーはどうなる?
2年間の停止が実現した場合、ユーザーのメリットは明確です。
●(1)購入時の負担軽減
たとえば300万円の車で税率3%の場合、環境性能割は9万円。
これが2年間はゼロになります。
軽自動車の場合も同様に負担が軽減され、家計にとっては購入タイミングを前倒しする大きなインセンティブとなります。
●(2)EVへの税優遇との差が縮まる
現在の環境性能割では、EV・FCVは完全非課税であり、ガソリン車(とくに燃費の悪い車)との差が大きい状況です。
停止によりこの差が一時的に縮まるため、EV以外の車を選ぶユーザーの心理的なハードルも低くなります。
●(3)中古車市場への波及
環境性能割は新車だけでなく一部の中古車にも課税されます。
したがって停止されれば、中古車価格も相対的に購入しやすくなり、流通の活性化が期待できます。
4. ただし課題も—地方財源と環境政策の問題
停止案にはメリットだけでなく、慎重な議論が必要な点もあります。
●(1)約1,900億円の地方財源をどう補うか
環境性能割の税収はすべて地方税です。停止すれば、この税収を国が補填するのか、地方が独自に確保するのか、議論が必要になります。
地方自治体はすでに
- 人口減少
- 公共施設維持費の増加
- 高齢化による社会保障支出の増加
という厳しい財政環境に置かれており、1,900億円の穴は小さくありません。
●(2)環境誘導効果の後退
環境性能割の停止は、短期的には家計にメリットがありますが、
環境政策の観点からは後退とみる声もあります。
特に
- EVシフトの速度低下
- ガソリン車の買い替え促進による環境負荷の増大
- 長期的な地球温暖化対策との整合性
が懸念点として挙げられています。
●(3)2年後に “元に戻せるのか” という問題
一度停止した税を再開するのは政治的に困難なケースが少なくありません。
買い替え需要が一巡した後、2年後に元に戻す際には「増税」の印象が強くなるため、再開が遅れる可能性もあります。
5. 2026年度税制改正に向けた議論のポイント
政府・与党は年内に議論を深め、2026年度税制改正大綱に方針を盛り込む見込みです。
今後の焦点は次の3点です。
●(1)環境性能割を「停止」にするのか、「廃止」まで踏み込むのか
停止はあくまで一時措置ですが、環境性能割のあり方そのものを問い直す議論も出てきます。
●(2)環境政策との整合性
- EV普及策
- 自動車税のグリーン化
- カーボンプライシングへの流れ
これらと矛盾なく制度設計ができるかが問われます。
●(3)地方財源の補填と自治体の反応
地方自治体は税収減を深刻に受け止める可能性があります。
国が全額補填するのか、それとも別の税体系で穴埋めするのかが大きな論点です。
■結論
環境性能割の2年間停止案は、自動車購入の負担を軽減し、業界支援として短期的には非常に効果があります。
一方で、地方財源の確保や環境政策との整合性という難しい課題も併せ持つ制度変更です。
税制は単に「減税すればよい」「負担を減らせばよい」という単純な問題ではなく、
家計・産業・自治体・環境など多方面への影響を慎重に調整する必要があります。
今後の2026年度税制改正の議論では、
- 自動車産業の競争力
- EVシフトの方向性
- 地方財政の持続可能性
- 家計負担とのバランス
を総合的に検討したうえで、より持続可能な制度が示されるかがポイントになります。
■参考
・日本経済新聞「環境配慮の車購入で税減免、2年停止軸に検討」2025年12月4日朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

