【積極財政の時代】成長の壁をどう越えるか 供給制約と日本経済のこれから

政策

近年、日本経済では「景気が上がりきらない」「企業は投資意欲を持っているのに成長が加速しない」という現象が続いています。政府は2025年度、21.3兆円規模の総合経済対策を決定し「責任ある積極財政」を打ち出しました。しかし、大規模な財政出動を行えば景気が自動的に良くなるわけではありません。いまの日本は、需要不足ではなく「供給力の不足」という新しい問題に直面しています。

本稿では、積極財政の意義を踏まえつつ、なぜ日本の供給力が伸び悩んでいるのか、そして、財政を本当に成長につなげるために必要な「賢い投資の選び方」について掘り下げていきます。

■1 日本が抱える「成長の天井」

2020年代後半、日本経済が直面している最大の課題は、企業や産業が拡大したくても 労働力・設備・インフラが不足し、供給能力が頭打ちになっている という点にあります。

  • 人手不足
  • 半導体をはじめとする部材不足
  • 老朽化したインフラ
  • 物流の制約
  • デジタル化の遅れ

消費や投資の「需要」があっても、それに応える生産体制が不十分であれば、GDPは伸びません。むしろ、人手不足が深刻化し、賃上げ圧力や物価上昇ばかりが先行する恐れもあります。

この状況こそが、現在の日本経済が抱える「成長の天井」です。


■2 なぜ供給力が不足しているのか

供給力不足の背景には、複数の構造的要因があります。

① 少子化による労働人口の減少

働き手そのものが減っているため、製造業・介護・物流・小売など、多くの分野で人材確保が難しくなっています。

② 長期投資の不足

日本企業は長らく設備投資を絞り、老朽設備を使い続ける傾向がありました。
背景には以下があります。

  • デフレ環境で需要が伸びなかった
  • 過度なコスト削減志向
  • 研究開発より現金保有を優先

これにより、生産性向上のスピードが海外企業より遅れています。

③ デジタル人材の不足

AI・データ活用・クラウドなどの領域では人材不足が深刻で、既存業務からの転換が進んでいません。特に中小企業はDXに投資する余力が乏しく、全体の供給力を底上げできない状態です。

④ 物流2024年問題

「時間外労働の上限規制」によりトラックドライバーの労働時間が短縮され、輸送能力に制約が生じています。製造業・小売業に広い影響を及ぼしています。


■3 財政出動は「どこに使うか」で成長が決まる

積極財政は、ただ規模が大きければよいわけではありません。
重要なのは どの分野に、どのような形で投資するか です。

成長につながる「賢い投資」とは以下の3類型に整理できます。


① 生産能力の底上げにつながる投資

  • 半導体工場などの先端産業
  • エネルギーの安定供給(再エネ・送電網投資)
  • 工場の自動化・ロボット化
  • 物流インフラ整備

これらは供給制約の改善に直接つながり、GDPの押し上げ効果が大きい領域です。


② 労働投入量を増やす投資

  • 保育サービスの拡充
  • リスキリング支援による産業転換
  • 高齢者の就労環境改善
  • 外国人材のスキル認証制度の整備

労働参加を促進し、労働力不足を緩和する政策は、日本の構造問題に直結します。


③ 生産性向上(TFP)の向上に寄与する投資

  • デジタル庁を中心とした行政DX
  • 中小企業のデジタル投資
  • AI・量子・バイオの基盤整備
  • オープンイノベーション支援

特にAIは、生産性向上に即効性があります。
AIによる業務効率化は労働力不足を補完し、中小企業でも取り組めるため、供給制約克服の鍵になります。


■4 積極財政の「落とし穴」

財政出動は万能ではありません。使い方を誤れば、むしろ成長を阻害する可能性があります。

① 単純な需要押し上げではインフレを助長

供給力の伸びが追いつかない状態で需要だけ増やすと、モノ不足による価格上昇につながります。

② 補助金頼みの経営体質

恒常的に補助金をもらうことで、企業の自助努力が遅れる事例もあります。

③ 人材不足がむしろ深刻化

補助金で一時的に需要が増えると、今以上に「人が足りない」状態が発生。
結果的に賃金・コスト上昇につながる可能性もあります。


■5 今、必要な「投資分野の見極め」

政府の積極財政には、以下の視点が欠かせません。

  1. 短期的な景気対策なのか
  2. 構造改革としての長期投資なのか
  3. 供給能力の向上と直結しているか
  4. 民間投資を誘発する設計になっているか

財政支出は「単独で景気を押し上げる」のではなく「民間企業が未来に自信を持って投資できる環境をつくる」ことが本質です。

特に重要なのは、
財政の役割は“呼び水”であり、民間投資につながる形にすること
という発想です。


■6 日本の産業別「優先投資領域」

供給制約の克服に向けて、今後の重点領域は次のように整理できます。


◆ ① 半導体・デジタル産業

  • 国内回帰の流れは継続
  • AI需要の急拡大で先端半導体がカギ
  • 人材育成と関連サプライチェーンの整備が不可欠

◆ ② エネルギー・GX

  • 再エネ・蓄電池・送電網
  • 省エネ住宅・産業設備の転換
  • 電力の安定供給が競争力の条件

◆ ③ 医療・介護

  • 介護人材不足の解消
  • 介護ロボット・自動化の導入
  • 地域医療DXの推進

◆ ④ 物流・交通インフラ

  • トラック輸送の効率化
  • 鉄道・港湾との連携強化
  • ラストワンマイルの自動配送

◆ ⑤ 中小企業の生産性改革

  • AI導入支援
  • 事務作業自動化
  • 業務標準化・クラウド移行
  • M&Aによる事業承継支援

これらの領域は供給能力の底上げに直結し、中長期で日本経済の成長力を高めます。


結論

積極財政は、単なる景気刺激策ではありません。
今の日本が抱えるのは「需要の不足」よりも「供給力の不足」であり、財政の役割は 供給能力を強化し、成長の天井を押し上げること にあります。

そのためには、

  • 生産性向上
  • 労働参加の拡大
  • デジタル・AIへの投資
  • インフラ更新
  • 産業転換への支援

といった「未来につながる投資」を選び抜くことが欠かせません。

財政は万能ではありませんが、使い方を誤らなければ、日本の成長の壁を突破する強力なツールになります。
これからの積極財政は「規模」ではなく「質」が問われる時代です。


参考

・日本経済新聞「積極財政下の景気(上)賢い投資へ分野見極めを」2025年12月4日 朝刊
・政府 経済対策関連資料
・内閣府 経済財政白書
・厚労省・経産省・国交省 各種統計資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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