住まいの取得を考えるとき、多くの人が最初に悩むのが「中古住宅と新築住宅のどちらを選ぶべきか」という問題です。新築の安心感は魅力ですが、中古住宅のコストパフォーマンスも無視できません。加えて、2025〜2030年にかけては住宅ローン減税の要件が見直され、省エネ住宅基準も段階的に強化されるため、制度面の前提も大きく変わろうとしています。本稿では、シリーズの第1回として中古と新築の比較に必要な「全体像」を政策的・市場的な観点から整理します。
1 人口動態から見た「住まい需要の変化」
住まいの市場は人口動態の影響を強く受けます。特に影響が大きいのは以下の点です。
(1)単身世帯の急増
総務省統計では、2040年前後には全世帯の約40%が単身になると見込まれています。
その結果、
- 小規模な物件の需要増
- 低価格帯の中古住宅への関心増
- 都市部で40〜50㎡以下のマンション需要が上昇
といった動きが顕著です。
今回の住宅ローン減税の床面積要件の緩和(原則40㎡へ)は、この流れを政策的に後押しするものです。
(2)高齢夫婦世帯の増加
シニア層では、
- コンパクトな住まいへの住み替え
- 管理しやすいマンション志向
- 中古住宅の「駅近」を求めるニーズ
が増加しています。
2 新築住宅の価格はどこまで上がっているか
近年の新築価格は前例のない上昇を続けています。
■ マンション価格(東京23区)
- 平均価格:1億円超え
- 25年前の約2倍以上
- 地方都市でも20〜30%の上昇
主因は以下の通りです。
- 建設コストの上昇
- 土地価格の上昇
- 建築基準法改正(省エネ性能義務化など)による仕様の高度化
新築プレミアムは年々強まり、「新築=高額」という構造は今後もしばらく続くと考えられます。
3 一方、中古住宅市場は“成熟”が進む
中古の需要が伸びている理由は単に価格が安いからではありません。
(1)質の高い中古住宅が増えている
- 省エネ基準を満たす住宅が新築・中古ともに増加
- 耐震基準は2000年以降で大幅改正
- 管理状態の良いマンションが増加
- ZEH改修などで中古の性能底上げが進行
価値が下がりにくく、リフォームしながら長く住める住宅が増えてきています。
(2)中古流通割合は10年で10ポイント増
国交省によると、住宅流通量に占める中古割合は
- 2014年:33.9%
- 2024年:43.6%(約4割)
と大幅に増加。
日本でも欧米型の“ストック型住宅市場”に近づきつつあります。
4 制度面の変化が中古有利に
今回の住宅ローン減税の見直し(延長・条件緩和)は中古住宅に追い風です。
- 40㎡以上なら中古でも減税対象
- 借入限度額の引き上げ案
- 減税期間の延長案
- 子育て・若年夫婦向けの「上乗せ限度額」を中古にも適用可能に
税制上の差は今後さらに縮まり、
「新築は税制が有利」ではなく「どちらも一定のメリットがある」
という時代に移行していきます。
5 総合すると「新築:安心感/中古:実質的な価値」
現時点の全体構造をまとめると以下のようになります。
■ 新築住宅の特徴
- 最新の省エネ性能
- 瑕疵保険による安心感
- 必要なメンテナンスが少ない
- ただし価格は高い・駅距離がある物件が増えている
■ 中古住宅の特徴
- 立地・広さの選択肢が豊富
- 新築より2〜3割安い
- リフォーム併用で性能を高められる
- 資産価値が維持されやすい物件も増加
結論
今後5〜10年の住宅市場は、「新築プレミアム」が続く一方で、中古住宅の品質向上と制度面の追い風によって、中古の魅力がさらに引き上げられる流れに入っています。特に都市部では、
- コンパクト住宅への需要増
- 中古の駅近物件の価値向上
- 省エネ性能の高い中古の増加
といった変化が顕著で、購入層のライフスタイルの変化と合致しています。
中古か新築かを決める際は、価格だけで判断するのではなく、
立地・性能・管理状態・将来の売却価値・制度の適用可否
といった複数の視点で比較することが大切です。
参考
住宅ローン減税5年延長 政府調整、中古支援手厚く(日本経済新聞 2025年12月3日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

