インボイス制度の導入にあわせ、小規模事業者の負担を軽減するために設けられた特例措置が、想定外の使われ方をしている可能性が指摘されています。本来は零細事業者・フリーランスなどを支援するための制度ですが、グローバル企業傘下の法人など規模の大きい事業者での利用も確認され、制度趣旨との乖離が議論され始めています。年末に本格化する税制改正の議論では、この特例の見直しが焦点のひとつとなる見通しです。
本稿では、当該特例がどのように機能し、なぜ「悪用」の懸念が指摘されているのかを整理し、今後の制度見直しの方向性を考えていきます。
特例の内容
問題視されているのは、インボイス発行事業者ではない 免税事業者から仕入れた場合でも、仕入税額の80%を控除できる特例です。
インボイス制度では、原則として発行者が消費税を納めていることを前提に仕入税額控除を認めます。しかし、免税事業者は消費税を納めていません。そこで、小規模事業者の売上減少や取引排除を防ぐため、経過措置として「8割控除」が認められています。
なぜ課税逃れにつながるのか
財務省は、以下のような利用実態を問題視しています。
- グローバル企業の日本法人が、
同じ企業グループ内にある免税事業者(子会社・関連会社)から仕入れ
→ インボイス特例により、支払った消費税の8割を控除 - 免税事業者は消費税を納めていないため、グループ全体の負担が軽減
本来「小規模事業者の保護」を目的としていた特例が、規模の大きい企業グループによる税負担軽減の手法になっているとの懸念です。
特に、
- 取引関係を内部で調整できる
- 価格設定や取引量の調整によって税額効果を最大化できる
という点で、グループ内取引は特例の濫用リスクが指摘されています。
制度目的とのズレ
本特例は、インボイス制度開始直後に小規模な免税事業者が取引から排除されないようにするため、段階的に控除割合を引き下げる「経過措置」として導入されたものです。しかし、規模の大きい企業が制度の隙間を突いて負担を減らすような取引が生じれば、制度の信頼性にも影響しかねません。
見直しの方向性
税制調査会では、以下のような論点が議論される可能性があります。
- グループ内取引の対象外化
– グループ企業間での免税事業者取引を特例の対象外とする案。 - 免税事業者の「属性」を条件にする
– 小規模事業者のみに限定し、資本金・従業員数などの基準で線引きする案。 - 特例廃止の前倒し
– 予定されている段階的縮小を加速し、早期に通常制度へ移行する案。 - 取引額に上限設定を設ける
– 一定額以上の仕入れは特例対象外とする案。
制度の公平性を保ちつつ、事業者の事務負担を増やしすぎないバランスが求められます。
中小企業・フリーランスへの影響
誠実に取引している小規模事業者にとって、制度の信頼性は非常に重要です。もし特例が廃止・縮小される場合、免税事業者の取引排除が再び懸念されるため、以下の点に注目が必要です。
- 免税事業者向け支援の充実
- インボイス登録の簡素化
- 電子インボイス対応の負担軽減
- 消費税の簡易課税・2割特例との整合性
負担を誰がどの程度負うのか、消費税の本質そのものにも踏み込んだ議論になる可能性があります。
結論
インボイス制度の特例は、本来の目的である「小規模事業者の保護」を実現する一方で、企業グループによる制度の利用・悪用の余地を生む側面も持っていました。今回の財務省の指摘は、制度の持続可能性と公平性を確保するために避けて通れない論点です。
年末の税制改正では、グループ内取引の扱い、特例の対象範囲、経過措置の継続期間などが重点的に議論される見通しです。制度が複雑になるほど、事業者の実務負担は増えます。特例の見直しは、消費税制度の根本的な設計を再考するきっかけともなるでしょう。
出典
日本経済新聞「インボイス特例で悪用か」(2025年12月2日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

