仮想通貨の20%分離課税が検討される中で、個人投資家がもっとも不安を感じている分野の一つが「ステーキング」と「NFT」の課税です。これらは売買だけでなく、報酬、交換、移転など多様な取引形態があり、税務の判断が難しい領域とされています。
分離課税化によって税率は20%に統一される見通しですが、課税タイミングや所得区分の扱いは制度設計に左右されるため、理解と準備が欠かせません。本稿では、制度改正前後を見据えて、ステーキングとNFTの税務上の本質と実務ポイントを整理します。
1.ステーキングの課税はなぜ複雑なのか
ステーキングとは、保有するトークンをネットワークに預け、その対価として報酬を受け取る仕組みです。現行制度では、受け取った瞬間に「雑所得」として所得が発生するとされていますが、取引所や方式により以下が複雑化します。
- 報酬トークンが価格変動しやすい
- 受取回数が多く記録が煩雑
- 報酬をすぐ売却するか、保有し続けるかで課税タイミングが変わる
- 海外DeFiでは報酬が複数トークンに分かれるケースもある
特に報酬を受け取った段階で課税される方式は、キャッシュフロー上の負担を生み、投資家から改善が求められてきました。
2.分離課税後に想定される3つの方向性
ステーキングの課税方式は、次のいずれかに整理される可能性があります。
A:報酬受取時に課税(現行踏襲)
報酬が付与された時点で所得が発生し、売却したかどうかに関係なく課税される方式です。
メリット:透明性が高い
デメリット:キャッシュフロー上の負担が大きい
B:売却時課税(最も投資家に有利)
海外DeFiも含め、報酬を受け取った段階では課税されず、売却時に課税する方式です。
メリット:株式配当や利子に近く、わかりやすい
デメリット:仕組み上の整理が必要で制度設計が複雑
C:種類ごとに課税方法を整理する
国内取引所のステーキングは受取時課税、DeFiは売却時課税など、区分整理する方式です。
分離課税になる以上、税務の整合性を取るため、シンプルな売却時課税を望む声は強まっています。
3.NFTの課税:購入時・売却時・交換時の考え方
NFTは仮想通貨よりもさらに課税が複雑です。取引の種類ごとに課税タイミングを整理します。
(1)NFTを購入したとき
仮想通貨を用いてNFTを買う場合、
仮想通貨を使った時点で「交換」とみなされ課税」が生じます。
例:ETH → NFT
- NFTの購入価額がETHの売却価額となる
- ETHの取得費との差額が課税所得
NFT自体にはこの段階では課税されません。
(2)NFTを売却したとき
NFTを売却した金額 − NFTの取得価額 が課税所得になります。
- ETHで売る場合:ETHの評価額で課税
- 円で売る場合:その時点の売却額で課税
NFTの評価額は市場が薄い場合があり、実務的な取得価額の記録が極めて重要になります。
(3)NFTを交換したとき
NFT ⇔ NFT の交換は、双方のNFTの時価で課税される可能性があります。
この領域は制度整備が不十分なため、分離課税化に合わせた明確化が期待されています。
(4)NFTを“受け取った”とき
エアドロップやゲーム内報酬でNFTを受け取った場合、受取時の時価で課税される可能性があります。
価値が変動しやすく、評価額の計算が難しいため、税務リスクの高い領域といえます。
4.ステーキング・NFTの税務実務で最重要となるポイント
ステーキング・NFTは価格変動が激しく、取引履歴も複雑なため、実務面では次の対応が欠かせません。
① 取引履歴の保存
- 報酬付与の日時
- NFT購入と売却の記録
- 海外DeFiでのトランザクションID
- 取得価額の保存(スクリーンショット推奨)
とくにNFTは市場が薄く、価格算定が難しいため、取得価額の保存が必須です。
② 取引所を分散しすぎない
取引所が増えるほど実務負担が爆増します。
国内大手+必要最小限の海外という構成が最も実務負担が少なくなります。
③ 税務ソフトとの連携
ステーキングやNFTにも対応したソフトを利用することで、計算ミスを大幅に減らせます。
④ 売却時課税が採用される可能性に備える
制度が変わると税務の前提も変わるため、
- 報酬受取
- 売却
- 交換
などの記録を細かく残すことが重要になります。
5.分離課税とステーキング・NFTの関係
分離課税は“投資家保護・市場拡大”を目的としています。
そのため、ステーキングやNFTのように複雑な領域は、制度設計の重点項目になる可能性が高いです。
具体的には、
- ステーキング報酬の課税方法の統一
- NFTの取得価額ルールの整備
- 海外取引の管理ルールの標準化
- 交換時課税の整理
などが期待されています。
こうした制度整備により、投資家の税務上の負担が軽減し、健全な市場形成につながると考えられます。
結論
ステーキングやNFTは、仮想通貨の中でも特に税務が複雑な領域です。分離課税化によって税率は20%に統一されますが、課税タイミングや所得区分の整理が必要な点は変わりません。
制度変更を迎える前に、
- 報酬の記録
- 取得価額の保存
- 取引所の整理
- 管理ツールの導入
- 税務ルールの理解
といった準備を進めることで、税務リスクを抑えながら資産形成を進めることができます。
ステーキング・NFTは大きな成長余力を持つ一方で、税務の計算を誤ると過大な負担やトラブルにつながるため、制度の動向を注視しつつ、慎重に取り組むことが重要です。
出典
・金融庁「暗号資産に関する制度整備」
・税制改正に関する報道資料
・国内外のステーキング・NFTの税務実務情報
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
