1. 「承継」はブランドの再出発点
老舗企業が代替わりを迎えるとき、
そこには必ず“物語”があります。
- 創業者の想いを次世代がどう受け継ぐか
- 時代の変化に合わせて何を変え、何を守るか
- 地域と共に歩んだ歴史をどう発信するか
これらはすべて「ブランド」の要素です。
💡 承継とは、経営権や株式の移転ではなく、
企業の物語(ストーリー)を再構築するプロセス。
承継をブランディングの“起点”に変える企業こそ、
次の100年を生き抜く力を持ちます。
2. 「伝統企業ブランディング」とは何か
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│【目的】伝統と革新を融合し、承継を企業価値に転換する │
│【対象】老舗企業・地域企業・ファミリービジネス │
│【方法】「理念・物語・デザイン」を一貫して再構成する │
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伝統企業ブランディングは、
「理念 × 歴史 × デザイン」の三位一体モデルで構築します。
| 項目 | 内容 | 成果 |
|---|---|---|
| 理念 | 承継ガバナンスに基づく経営方針 | 一貫性・信頼性 |
| 歴史 | 創業ストーリー・地域文化 | 共感・親近感 |
| デザイン | 商品・店舗・情報発信の統一 | 伝達力・新鮮さ |
3. ストーリーデザインの基本構造
老舗企業のブランドは、ストーリーによって**“伝統”が“未来”へ翻訳**されます。
【図:ブランド・ストーリーの三層構造】
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│ 第1層:創業ストーリー(原点) │
│ 創業の理念・地域との出会い・苦難と挑戦 │
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│ 第2層:現在ストーリー(継承) │
│ 後継者が何を受け継ぎ、どう進化させたか │
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│ 第3層:未来ストーリー(志) │
│ 次の100年に向けて何を守り、何を変えるのか │
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📖 この3層を明確に整理し、「理念」「商品」「発信」に落とし込むことで、
承継が“物語として伝わるブランド価値”へと変わります。
4. 【実例】伝統を「ブランド資産」に変えた企業たち
① 京都・漬物老舗「西利」
- 創業時の「京の四季を漬ける」という哲学を継承
- パッケージと店舗デザインをリブランディング
- 若手後継者がInstagramで「季節の手仕事」を発信
👉 伝統 × SNS の融合で、若年層ファンを獲得。
「手仕事の映像化」がブランドの新たな財産に。
② 東京・印章店「はんこ屋 井口」
- 3代目が「文化継承ブランド」として再定義
- 漢字の美しさを発信する“書体展”を開催
- 「はんこ=アート」へと再ポジショニング
👉 承継が単なる継続ではなく「業態変革」へ。
“理念を残し、意味を変える” ブランディングの好例。
5. 承継ブランディングの5ステップ
承継をブランド戦略に変えるための、実践的な5段階プロセスです。
| ステップ | 内容 | 出力物 |
|---|---|---|
| STEP1 | 創業理念・歴史の棚卸し | 社史・ヒストリーブック |
| STEP2 | 現経営の強みと差別化分析 | ブランドコアマップ |
| STEP3 | 後継者のビジョン定義 | ブランドストーリーボード |
| STEP4 | デザイン刷新(ロゴ・店舗・Web) | ビジュアルアイデンティティ |
| STEP5 | 発信と社内共有(動画・研修・SNS) | ブランドハンドブック |
💡 ブランドとは「形」ではなく「語り方」。
承継を通じて“語りの軸”を整理し直すことがブランディングの核心です。
6. 社員を巻き込む「インナーブランディング」
ブランドを継ぐのは経営者だけではありません。
現場の社員こそ、最も強力な“語り手”です。
- 社員研修で「創業ストーリー共有」
- 感謝祭・周年行事で「歴史と未来」を一体化
- 社員がSNS・採用動画で語る「うちの会社の誇り」
🌱 承継ブランディングの目的は、社員に“自分ごと”として語らせること。
伝統の担い手が社長一人から全社員に広がる瞬間、ブランドは再生します。
7. 非財務承継とブランド価値の統合
非財務資産(人・文化・信用)は、そのままブランドの中核でもあります。
| 非財務資産 | ブランド転換の方法 |
|---|---|
| 人的資本 | 社員ストーリー・職人紹介・動画発信 |
| 文化資本 | 歴史・社是をデザインやタグラインに反映 |
| 社会資本 | 地域連携・顧客共創を「社会的ブランド価値」に変換 |
💬 もはや「非財務」はブランド戦略の中心。
ESG・人的資本開示の時代に、承継=非財務の再定義 なのです。
8. ケーススタディ:伝統茶舗「G園」(創業1889年・東京)
| 分野 | 実践内容 |
|---|---|
| 理念 | 「一服のお茶で人を幸せに」を再定義し英語化 |
| デザイン | 創業当時の家紋をリブランディングロゴに再構築 |
| 発信 | YouTubeで職人の“手の動き”を映像化、海外発信 |
| 社員 | 若手社員が茶の淹れ方を講師として発信する制度 |
| 成果 | 海外茶愛好家からの支持・輸出増加・採用力向上 |
🎥 「ストーリーを語れる伝統」こそ、世界に通じるブランド。
G園は、承継を“国境を越えるブランド価値”に転換しました。
9. 実務のまとめ ― “伝統”は動的な資産である
承継をブランドに変える企業は、3つの特徴を持っています。
1️⃣ 理念を更新する勇気(守るべきものと変えるべきものを分ける)
2️⃣ 社員を物語の主役にする(トップ発信ではなく共創)
3️⃣ 非財務資産を見える化する(文化を経営指標にする)
🧭 「伝統を続ける」とは、昨日のコピーを作ることではない。
“理念を未来の言葉で語り直す”ことこそ、承継ブランディングの真髄です。
10. まとめ ― 企業の物語を未来の資産に変える
老舗企業の価値は、資産ではなく物語に宿ります。
その物語を形にし、次世代に託すことが“承継ブランディング”です。
- 経営を継ぐ ⇒ 物語を継ぐ
- 物語を継ぐ ⇒ ブランドを創る
- ブランドを創る ⇒ 未来をつなぐ
🌸 伝統は静的ではなく動的な資産。
承継のたびに語り直され、磨かれていく。
その循環こそが「100年企業のブランド力」なのです。
📘 出典・参考
- 経済産業省「老舗企業ブランド力強化調査(2025年版)」
- 金融庁「非財務情報とブランド価値の統合報告」
- 日本経済新聞「伝統企業、承継をブランド化する動き」(2025年10月)
- 中小企業庁『事業承継とブランディングの統合戦略』
- 京都商工会議所『老舗企業におけるブランド伝承事例集』
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
