第3回 老後の住まい戦略 ― 住み替え、リフォーム、売却の判断基準― 定年後に慌てない「住宅資産の出口戦略」

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■ 「このまま住み続けられるのか?」という現実的な問い

住宅ローンを完済し、「これで安心」と思った瞬間から、次の課題が始まります。
それは――“老後、家にどう住み続けるか”という現実的な問いです。

国土交通省の調査によると、60代以上のマンション居住者の約6割は「永住意向」を示しています。
しかし一方で、築30年以上のマンションでは管理費や修繕積立金の滞納率が3割を超えるケースもあります。
高齢になるほど収入が減り、修繕積立金の増額やリフォーム費用を負担できないという声が増えているのです。

「家は資産」と言われますが、維持できなければ“負債化”する可能性もあります。
老後を見据えた住宅戦略は、今から準備してこそ意味があります。


■ 老朽化とともに増える「維持費」の壁

築30年を超えると、住宅は次のような課題が一気に顕在化します。

  • 屋上防水や外壁塗装などの大規模修繕
  • 給排水管・エレベーターなどのインフラ更新
  • 室内では水回り・給湯器・床材の交換
  • 高齢化に伴うバリアフリー化ニーズ

リフォーム費用の目安として、

  • 浴室やキッチン:各100〜150万円
  • トイレ・床・内装など含めると、全面改修で300〜500万円になることも。

「定年後の貯蓄で何とかなる」と考える方も多いですが、年金生活に入ってからの大規模支出は負担が大きく、リフォーム資金の確保は現役時代のうちに計画しておくことが重要です。


■ 住み替えという“第2の選択肢”

築年数が進み、管理費・修繕積立金が上昇するマンションを持ち続けるより、住み替えによって生活の安定を図るという選択もあります。

住み替えの主なタイプは次の3つです。

タイプ主なメリット主な注意点
コンパクトマンションへの買い替え管理費・光熱費を抑えやすい売却益で購入資金をまかなえるか
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)への移行介護や見守りサービスが充実月額費用が高く、資産形成には向かない
郊外への住み替え売却資金でゆとりある生活も可能交通利便性・医療アクセスを要確認

どの選択も「今の住まいをいくらで売れるか」が前提になります。
査定額は築年数だけでなく、管理組合の健全性・修繕履歴・滞納率などによっても大きく変わります。
“建物の状態”は、“資産の信用力”です。


■ 売却・賃貸・リフォーム 3つの出口をどう選ぶか

住宅の出口戦略を考えるうえで、次の3つを比較しておくことが重要です。

選択肢メリットリスク・注意点
売却資金化して老後資金や介護費に充当できる譲渡所得税、買い手のつきやすさ
賃貸家賃収入を得られる、空き家リスクを回避管理コスト・リフォーム費用が発生
リフォーム愛着のある家に住み続けられる資金負担・高齢期の施工リスク

特にマンションの場合、「リフォームで延命」か「売却で次の住まいへ」かの判断は早めが肝心です。
築40年を超えると、大規模修繕と建て替え議論が重なるため、タイミングを逃すと身動きが取れなくなる可能性もあります。


■ 税理士が見る「老後住宅と税金」の関係

老後の住まいをどう扱うかは、税制面でも重要な分岐点になります。
代表的な論点を3つ挙げます。

① 譲渡所得税(マイホーム売却の特例)

居住用財産を売却して利益が出た場合でも、

  • 3,000万円特別控除
  • 10年超所有で軽減税率(14%前後)
    が適用されるケースがあります。
    ただし、空き家化して3年以上経過すると特例が使えないこともあるため、早めの判断が肝心です。

② 相続時精算課税・贈与税の活用

親名義のマンションを早めに子世代へ移転し、
老後はそのまま“賃借人として居住”するというケースもあります。
2024年改正で相続時精算課税制度が柔軟化し、贈与の選択肢が増えた点も見逃せません。

③ リバースモーゲージ

高齢者が自宅を担保に融資を受け、死亡時に売却して返済する制度。
生活資金・リフォーム資金の確保に有効ですが、金利変動や評価額下落に注意が必要です。


■ FPが提案する「老後住宅の判断ステップ」

老後に備えて、住宅戦略を考えるタイミングは遅くとも50代後半が目安です。
次のステップで整理してみましょう。

1️⃣ 現在の住宅の修繕・維持コストを把握する
2️⃣ 将来のリフォーム・更新費用を見積もる
3️⃣ 相続・譲渡の税制メリットを確認する
4️⃣ 売却・賃貸・住み替えの3案を比較
5️⃣ ライフプラン表でキャッシュフローに反映

FP・税理士の立場から言えば、「住宅」は単なる住まいではなく、“老後資金の一部”であり、“相続財産の一部”です。
だからこそ、数字と感情の両面から冷静に判断することが求められます。


■ まとめ:住まいは“人生設計の最後の砦”

住宅は、人生の早い段階で購入しても、
最後まで“家計と密接に結びつく資産”であり続けます。

  • 若い時期は「買う勇気」
  • 現役時代は「維持する力」
  • 老後は「手放す覚悟」

――この3つのバランスが取れてこそ、住宅は真の“生涯資産”になります。

FPとして、そして税理士として伝えたいのは、
「住まいの出口戦略こそ、老後の安心の入口である」ということ。

あなたの“マイホーム”が、“未来の負担”ではなく“人生の支え”となるよう、
いま一度、住まいの資産価値とライフプランを見つめ直してみてください。


📘シリーズまとめ:「FP×住宅購入 ― 長く住んで後悔しないための資産管理術」

タイトル主なテーマ
第1回知らないと損する!マンションの長期修繕計画修繕積立金と宅建業法の盲点
第2回“買って終わり”ではない!住宅にかかる固定費のすべて固定費とキャッシュフロー設計
第3回老後の住まい戦略 ― 住み替え、リフォーム、売却の判断基準住宅資産の出口戦略と税務対応

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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