2026年度税制改正大綱の策定が大詰めを迎えています。物価高が長期化する中、家計や企業の負担軽減を意識した減税策が数多く盛り込まれる見通しです。一方で、恒常的な財源確保につながる増税や租税特別措置の整理は限定的にとどまり、制度全体の持続可能性には課題も残ります。
本稿では、今回の税制改正大綱案の特徴を整理しつつ、その背景と今後の論点を整理します。
家計向け減税が前面に出た改正内容
今回の税制改正で最も目立つのは、個人・家計向けの減税策です。住宅ローン減税では、中古住宅の取得を後押しするため、減税対象となるローン限度額を最大4,500万円に引き上げ、適用期間も13年に延長する方向です。新築偏重から既存住宅活用への政策転換が明確になっています。
また、少額投資非課税制度(NISA)では、「つみたて投資枠」を18歳未満にも拡大し、ゼロ歳からの口座開設を可能にします。年間60万円、総額600万円という枠設定は、教育資金や長期資産形成を意識した制度設計といえます。
さらに、企業が従業員に提供する食事代の非課税枠を月7,500円へ引き上げるなど、長年据え置かれてきた非課税限度額の見直しも行われます。物価上昇を制度面で調整する姿勢が読み取れます。
企業向け減税は投資促進色が鮮明
企業向けでは、全業種を対象とした大規模投資減税が新設されます。一定の投資規模や収益性の条件を満たせば、投資額の7%を法人税額から控除でき、即時償却との選択制も導入されます。国内投資を喚起し、成長分野への資金流入を促す狙いです。
研究開発税制では、海外委託分への控除制限を設ける一方で、AIや量子といった先端分野への上乗せ措置を新設します。研究開発投資の「国内回帰」と戦略分野集中を同時に進める構造となっています。
高所得者への負担増と未整理の論点
減税が並ぶ一方で、税負担が増えるのは主に高所得者層です。いわゆる「1億円の壁」の是正では、最低税率を30%に引き上げるとともに、追加課税が生じる所得水準を年30億円から年6億円へと大きく引き下げる方向です。対象者は限定的ですが、象徴的な再分配強化策といえます。
ただし、租税特別措置の整理は道半ばです。賃上げ促進税制は大企業の除外が決まったものの、中堅企業については1年先送りとなりました。減税の「出口戦略」は明確とは言えません。
また、所得税の非課税枠、いわゆる「年収の壁」については、引き上げ幅や対象拡大を巡り、与野党協議が続いています。自動車関連税制、防衛力強化財源、高校生の扶養控除の見直しなども結論は先送りされています。
減税色が強まる政治的背景
今回の減税重視の税制改正は、参議院で与党が過半数を持たない政治状況と無関係ではありません。減税を掲げる野党の意向を取り込みつつ、政権運営を安定させる必要があるためです。
加えて、税制調査会の運営体制や方針変更もあり、「責任ある積極財政」を掲げる姿勢が制度設計に反映されています。
結論
2026年度税制改正大綱は、家計と企業への配慮を前面に出した減税色の強い内容となっています。物価高への対応や投資促進という点では一定の合理性がありますが、恒常的な財源確保や税制全体の整理は十分とは言えません。
今後、野党との協議を経て、どこまで制度が調整されるのかが注目されます。減税と財政規律の両立という難題に対し、税制がどのような形で着地するのか、引き続き注視が必要です。
参考
日本経済新聞「家計・企業の減税ずらり 来年度税制大綱、与党詰め」(2025年12月13日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
