2026年度税制改正では、家計支援や企業減税が前面に出る一方で、富裕層に対する課税強化も盛り込まれました。
その象徴が、いわゆる「1億円の壁」の是正です。
減税と給付を広く行う一方で、なぜ富裕層課税の見直しが必要とされたのでしょうか。
本稿では、「1億円の壁」とは何か、今回の改正で何が変わるのかを整理し、税の公平性という観点から考えます。
「1億円の壁」とは何か
「1億円の壁」とは、合計所得金額が一定水準を超えると、所得税の実効負担率がかえって低下する現象を指します。
これは、株式配当や譲渡益などの金融所得が、給与所得とは異なり、分離課税で一律の税率が適用されるためです。
高所得層ほど金融所得の割合が高くなり、その結果、所得が増えても税負担率が上がらない、あるいは下がるという歪みが生じていました。
この点は、長年にわたり税制の不公平として指摘されてきました。
今回の是正措置の内容
2026年度税制改正では、この歪みを是正するため、負担率を引き上げる対象を拡大します。
具体的には、合計所得金額に設けられていた非課税枠を、これまでの3億3,000万円から1億6,500万円に引き下げます。
そのうえで、所得税の実効負担率が30%程度となるよう、課税を調整する仕組みが導入されます。
これにより、従来よりも広い範囲の高所得者が対象となり、富裕層の税負担は確実に増えることになります。
相続税評価の見直し
今回の改正では、所得税だけでなく、相続税の分野でも富裕層対策が講じられました。
投資用の賃貸マンションなどについて、購入から5年以内に相続が発生した場合は、従来の路線価ではなく、購入価格を基準に評価する仕組みが導入されます。
これまで、路線価による評価が市場価格より低くなりやすいことを利用した節税が問題視されてきました。
評価方法の見直しは、過度な節税を抑える効果が期待されます。
ふるさと納税の上限設定
さらに、ふるさと納税についても見直しが行われます。
2027年の寄付分から、住民税の特例控除額に上限が設けられます。
高所得者ほど多額の控除を受けられる仕組みは、再分配の観点から批判がありました。
上限設定により、制度の公平性を高める狙いがあります。
公平性は回復するのか
今回の改正は、富裕層課税を一段と強化する内容となっています。
一方で、金融所得課税を全面的に見直すわけではなく、限定的な是正にとどまっています。
税の公平性をどう考えるかは、価値観の分かれる問題です。
ただ、家計支援や減税を進める以上、負担能力の高い層にも一定の負担を求めるという考え方は、政策全体として一貫性があるといえます。
結論
2026年度税制改正における「1億円の壁」是正は、税の公平性を意識した重要な一歩です。
所得税・相続税・ふるさと納税といった複数の分野で、富裕層向けの見直しが行われました。
もっとも、今回の対応で歪みが完全に解消されるわけではありません。
今後も、資産課税のあり方は継続的に議論されていくことになります。
次回は、資産形成の観点から、NISAの拡充や暗号資産課税の見直しについて整理します。
参考
- 日本経済新聞
「物価高・ゆがみ是正を意識 税制こう変わる」
「税制改正、手取り増優先 年収の壁上げ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
次はこちら↓
2026年度税制改正 第6回(資産形成編)NISA・暗号資産課税はどう変わるのか― 投資優遇と規制の境界線 | 人生100年時代を共に活きる税理士・FP(本格稼働前)
