2026年度税制改正 第4回(企業編②)AI・量子研究減税は成長を生むのか― 研究開発税制の再設計とその評価

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2026年度税制改正では、企業向けの設備投資減税と並び、研究開発税制も大きく見直されました。
とりわけ注目されているのが、人工知能や量子といった先端分野を対象に、減税を上乗せする新たな仕組みです。

政府は、研究開発への税制支援を強化することで、将来の成長力を高めたい考えです。
しかし、研究開発減税はこれまでも繰り返し拡充と見直しが行われてきました。本当に今回は、実効性のある制度となるのでしょうか。

本稿では、今回の研究開発税制の見直し内容と、その狙い、評価すべき点と課題を整理します。

研究開発税制の位置づけ

研究開発税制は、企業が支出した研究開発費の一部を法人税から控除する制度です。
日本では長年にわたり、成長戦略の柱として位置づけられてきました。

一方で、制度が複雑化し、効果が分かりにくいという指摘も根強くあります。
研究開発費が多い大企業ほど恩恵を受けやすく、必ずしも新しい成長分野への投資を促していないとの批判もありました。

先端分野を対象とした上乗せ措置

今回の改正では、人工知能や量子といった先端分野を対象に、新たな区分を設けます。
これにより、研究開発費の最大4割を法人税額から差し引くことが可能になります。

従来の研究開発税制では、控除率の上限は3割でした。
先端分野に限って上限を引き上げることで、政策的に重点分野を明確にした点が特徴です。

政府は、国際競争が激しい分野で、日本企業の研究開発を後押ししたい考えです。

大企業への適用を厳しくした意味

今回の見直しでは、減税を拡充する一方で、大企業への適用要件を厳しくしました。
また、海外の企業や大学に委託した研究については、減税対象を絞り込む方向です。

これは、研究開発減税が国内投資や国内雇用につながっていないとの反省を踏まえた対応といえます。
税制支援を行う以上、その効果が国内経済に還元されることを重視する姿勢が示されています。

控除額の繰り越し制度の拡充

今回の改正では、中小企業や先端分野を対象に、使い切れなかった控除額を最大3年間繰り越せる制度も導入されます。
研究開発は成果が出るまで時間がかかり、赤字が続くケースも少なくありません。

繰り越し制度を拡充することで、研究開発に挑戦しやすい環境を整える狙いがあります。
この点は、従来の制度と比べて評価できるポイントです。

成長につながるのかという課題

もっとも、研究開発減税が直接的に成長を生むかどうかは、慎重に見る必要があります。

税制はあくまで後押しに過ぎず、技術が事業化され、市場で成果を上げなければ成長には結びつきません。
また、先端分野を指定することが、技術選択の自由度を狭める可能性もあります。

政策としての明確さと、企業の自律的な判断とのバランスが問われます。


結論

2026年度税制改正による研究開発税制の見直しは、先端分野への集中支援と、国内への還元を意識した再設計といえます。
控除率の引き上げや繰り越し制度の拡充は、一定の前進です。

一方で、税制だけで成長が生まれるわけではありません。
研究開発の成果が事業化される環境づくりと合わせて、制度の効果を検証していくことが不可欠です。

次回は、視点を資産と富裕層課税に移し、「1億円の壁」是正や相続税評価の見直しについて考えます。


参考

  • 日本経済新聞
    「全産業で設備投資減税 与党税制大綱決定」
    「物価高・ゆがみ是正を意識 税制こう変わる」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

次はこちら↓

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