2026年度税制改正 第3回(企業編①)全産業対象の設備投資減税とは何か― 即時償却と税額控除、その狙いと実効性

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2026年度税制改正のもう一つの大きな柱が、企業向けの設備投資減税です。
今回の改正では、特定の業種に限らず、全産業を対象とした新たな設備投資促進税制が創設されました。

政府はこの制度を通じて、国内投資を後押しし、成長力を底上げしたい考えです。
しかし、税制優遇によって企業の投資行動は本当に変わるのでしょうか。

本稿では、新設される設備投資減税の仕組みと、その狙い、そして実効性について整理します。

新設される設備投資減税の概要

2026年度に創設される設備投資減税では、一定規模以上の投資を行った企業に対し、次のいずれかを選択できる仕組みが用意されます。

一つは、投資額の7%を法人税額から差し引く税額控除です。
もう一つは、取得した設備を投資初年度に一括で費用計上できる即時償却です。

従来の税制では、設備投資は耐用年数に応じて分割して減価償却するのが原則でした。
今回の制度は、税負担の軽減を投資初年度に集中させる点が特徴です。

全産業を対象とした意味

これまでの設備投資減税は、成長分野や特定業種に限定されることが少なくありませんでした。
一方、今回の制度は製造業に限らず、幅広い業種を対象としています。

背景には、産業の空洞化への強い危機感があります。
円安や海外市場の成長を受け、生産拠点や投資先を海外に移す動きが続いてきました。

政府は、国内投資の税負担を軽くすることで、企業を日本につなぎとめたい考えです。
設備投資を通じて賃上げや生産性向上につなげる狙いもあります。

即時償却と税額控除、どちらが有利か

企業にとって、即時償却と税額控除のどちらが有利かは一概には言えません。

即時償却は、初年度の利益を圧縮できるため、黒字企業にとっては資金繰り面での効果が大きくなります。
一方、税額控除は、利益水準に関係なく、法人税額そのものを直接減らせる点が特徴です。

将来の利益見通しや、他の税額控除との兼ね合いを踏まえて、企業ごとに選択が分かれると考えられます。

投資行動は本当に変わるのか

制度の実効性については、慎重な見方もあります。

企業の投資判断は、税制だけで決まるものではありません。
需要動向、世界経済の先行き、各拠点の稼働状況など、複合的な要因を踏まえて判断されます。

実際、企業側からは、減税は歓迎しつつも、制度ありきで投資計画を前倒しするわけではない、という声も聞かれます。
税制は後押しにはなっても、決定打にはなりにくいのが現実です。

財政への影響と課題

今回の設備投資減税による減税額は、年間で約4,000億円と見込まれています。
これは決して小さな規模ではありません。

効果が十分に検証されないまま制度が拡大すれば、財政悪化につながるおそれもあります。
今後は、投資の実績や賃上げへの波及効果を検証しながら、制度を見直していくことが欠かせません。


結論

2026年度税制改正で創設される設備投資減税は、国内投資を促し、成長力を高めることを狙った制度です。
即時償却と税額控除を選択できる柔軟な設計は、企業にとって一定のメリットがあります。

一方で、税制だけで投資行動を大きく変えることには限界があります。
今後は、制度の効果を冷静に検証し、財政とのバランスをどう取るかが問われます。

次回は、同じ企業向け施策でも、研究開発税制に焦点を当て、AIや量子分野への減税強化の意味を考えます。


参考

  • 日本経済新聞
    「全産業で設備投資減税 与党税制大綱決定」
    「物価高・ゆがみ是正を意識 税制こう変わる」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

次はこちら↓

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