2026年度税制改正大綱では、家計・企業向けの減税策が前面に出る一方で、財源確保に関する議論は目立っていません。社会保障費や防衛費の増加が見込まれる中、本来であれば避けて通れないはずの財源論が、なぜ後回しにされているのでしょうか。
本稿では、税制改正の舞台裏にある構造的要因を整理し、財源論が先送りされる理由を読み解きます。
税制改正における「順番」の問題
税制改正は、すべてを一度に決めることができる仕組みではありません。減税や制度拡充といった「与える側」の議論は比較的合意形成がしやすい一方、増税や負担増といった「取る側」の議論は政治的な摩擦を生みやすく、後回しにされがちです。
今回の税制改正でも、まずは減税策を並べ、その後に財源論を検討するという順番が取られています。
増税は「野党協議案件」になりやすい
少数与党の状況下では、増税を伴う税制改正は単独で決めることが難しくなります。防衛力強化や社会保障の財源確保といったテーマは、野党との協議が不可欠です。
そのため、税制改正大綱の段階では結論を急がず、協議の余地を残す形で先送りされるケースが増えています。
社会保障と防衛という二つの重圧
財源論を語るうえで避けて通れないのが、社会保障費と防衛費の増加です。高齢化の進展により、医療・介護・年金の給付費は今後も増え続ける見通しです。
加えて、防衛力強化に伴う財源確保も喫緊の課題となっています。これらは一時的な支出ではなく、恒常的な財政負担です。
なぜ「恒久財源」が語られにくいのか
恒久的な財源確保策は、国民にとって負担感が分かりやすく、反発を招きやすいという特徴があります。
消費税、所得税、社会保険料といった主要な財源はいずれも生活に直結するため、政治的に扱いが難しいテーマです。その結果、議論は「必要だが今ではない」という形で先送りされがちになります。
減税と財源論の時間差
今回の減税策は、多くが期限付きや条件付きの措置です。これは、将来の財源論を完全に封じているわけではなく、時間を稼ぐための設計ともいえます。
まずは減税で不満を和らげ、その間に中長期的な財政議論を進めるという構図です。
家計・企業への影響
財源論が先送りされることは、家計や企業にとって短期的にはプラスに見えます。しかし、将来的に急激な負担増が行われるリスクも内包しています。
特に、政策減税を前提にした行動は、制度変更の影響を受けやすくなります。
今後の議論の行方
財源論が完全に避けられるわけではありません。社会保障や防衛を巡る議論が本格化すれば、税制改正の焦点は再び「負担」に移る可能性があります。
その際、どの層に、どの税目で負担を求めるのかが大きな争点となるでしょう。
結論
財源論が後回しにされている背景には、政治的な合意形成の難しさと、負担増に対する強い抵抗があります。2026年度税制改正は、減税を先行させることで時間を稼ぎつつ、難しい議論を先送りした側面があります。
しかし、財政制約が続く中で、この構造がいつまでも維持できるわけではありません。今後の税制改正では、減税と財源確保のバランスがより厳しく問われることになるでしょう。
参考
日本経済新聞「家計・企業の減税ずらり 来年度税制大綱、与党詰め」(2025年12月13日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
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<財源・政治編④(最終回)>税制調査会と政権構造の変化 税制改正は誰が、どのように決めているのか | 人生100年時代を共に活きる税理士・FP(本格稼働前)
