<財源・政治編①>減税ずらりの正体 物価高対応か、選挙対応か

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

2026年度税制改正大綱は、家計向け・企業向けの減税が数多く並ぶ内容となりました。住宅ローン減税の拡充、NISAの年少者への拡大、投資減税の新設など、個々の施策を見れば、いずれも一定の合理性があります。
しかし全体を俯瞰すると、別の疑問が浮かびます。なぜ、これほどまでに減税が集中したのか。これは物価高への純粋な対応なのか、それとも政治的な判断の結果なのか。本稿では、その背景を整理します。

物価高対応としての減税

まず、表向きの理由は明確です。物価上昇が続く中で、家計や企業の負担感が強まっているという現実があります。
賃金の伸びが物価に追いつかない局面では、税や社会保険料が実質的な負担増として作用します。そのため、減税や非課税枠の見直しによって、可処分所得を下支えするという説明は一定の説得力を持ちます。

住宅ローン減税の中古住宅重視や、食事代非課税枠の引き上げなどは、制度の陳腐化を是正する側面があり、物価高対応として理解しやすい施策です。

それでも減税が「並びすぎている」理由

ただし、今回の税制改正では、単発の調整にとどまらず、複数の分野で同時に減税が打ち出されています。
家計、企業、投資、研究開発と、対象は幅広く、結果として「減税色が強い改正」という印象を与えています。

ここで注目すべきなのは、減税の多くが恒久措置ではなく、期限付き・条件付きの政策減税である点です。これは、財政規律を完全に放棄したわけではなく、政治的に調整された減税であることを示しています。

少数与党という政治環境

今回の減税集中の背景には、政治環境の変化があります。参議院で与党が過半数を持たない状況では、税制改正を単独で押し切ることができません。
減税を掲げる野党との協議を円滑に進めるためには、一定程度の譲歩が必要になります。減税策は、そのための共通項になりやすいテーマです。

増税や負担増は、合意形成が難しく、後回しにされやすい。一方、減税は分配効果が分かりやすく、政治的コストが比較的低いという特徴があります。

「責任ある積極財政」という言葉

今回の税制改正を読み解く上で、「責任ある積極財政」というキーワードも重要です。
積極財政というと、支出拡大のイメージが強いですが、税制の世界では「減税」もその一部として扱われます。一方で、「責任ある」という言葉が付くことで、恒久減税ではなく、条件付き・時限的な措置にとどめるというバランスが取られています。

この言葉は、減税を進めつつも、将来の財源論から完全に目を背けているわけではない、というメッセージでもあります。

なぜ財源論は前面に出ないのか

今回の改正で特徴的なのは、減税の説明が前面に出る一方で、財源確保の議論が後景に退いている点です。
防衛費や社会保障費の増加が避けられない中で、本来であれば財源論は避けて通れません。それでも、税制改正の段階では、具体的な増税議論は先送りされています。

これは、短期的な政治判断としては理解できる一方で、中長期的には課題を先送りしているともいえます。

減税は「時間を買う政策」

今回の減税をどう評価するかについて、一つの見方があります。それは、減税は問題を解決する政策というより、「時間を買う政策」だという考え方です。
物価高や構造的な賃金問題、財政制約といった難題に対し、すぐに決着をつけることはできません。減税によって当面の不満を和らげ、その間に次の制度設計を考える余地を確保する。そうした役割を果たしているとも考えられます。

結論

2026年度税制改正大綱に減税が並んだ背景には、物価高への対応という合理的な理由と、少数与党下での政治的配慮という現実が重なっています。
減税そのものを否定することはできませんが、恒久的な解決策ではないことも明らかです。税制は今、問題を先送りしながら、次の選択を探る段階にあるといえるでしょう。

参考

日本経済新聞「家計・企業の減税ずらり 来年度税制大綱、与党詰め」(2025年12月13日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

次はこちら↓

<財源・政治編②>1億円の壁是正の本当の意味 再分配強化は象徴か、実効策か  | 人生100年時代を共に活きる税理士・FP(本格稼働前)

タイトルとURLをコピーしました