2026年度税制改正大綱を巡る議論の中で、最後まで結論が持ち越されているテーマの一つが、いわゆる「年収の壁」です。物価が上昇する中で、非課税枠が固定されたままであることへの不満は以前から強く、家計や働き方に与える影響は無視できません。
今回の改正では、非課税枠を160万円から178万円へ引き上げる案が浮上していますが、その中身と限界を冷静に見る必要があります。
年収の壁とは何か
年収の壁とは、一定の年収を超えると税や社会保険料の負担が増え、手取りが減る、あるいは増えにくくなる仕組みを指します。所得税の非課税枠だけでなく、住民税や社会保険料の基準が複雑に絡み合い、家計の行動に影響を与えてきました。
特に、配偶者のいる世帯やパート・アルバイトで働く人にとっては、働き控えを生む要因として長年問題視されてきました。
非課税枠引き上げ案の狙い
今回検討されている非課税枠の引き上げは、過去2年間の物価上昇を反映させる形で、160万円から178万円へと調整する案です。名目賃金が上がらなくても、物価上昇によって実質的な負担が増えてしまう状況を是正しようとするものです。
これは、物価連動的な税制調整の第一歩とも位置づけられます。
一方で、引き上げ幅は限定的です。物価高による家計の圧迫感を完全に解消するほどの効果があるわけではありません。
対象拡大を巡る議論
非課税枠の引き上げと並んで焦点となっているのが、最も大きな非課税枠が適用される年収要件の見直しです。現行制度では、年収200万円以下が最大の非課税枠の対象となっていますが、この基準を引き上げるべきだという意見があります。
この見直しは、低所得層に限らず、より幅広い層の負担を軽減する可能性がありますが、財源確保の問題と直結します。
年収の壁が生む行動のゆがみ
年収の壁は、単なる税負担の問題にとどまりません。働き方そのものに影響を与え、労働供給を歪めてきました。
一定の年収を超えると手取りが増えにくくなるため、労働時間を調整する行動が合理的になってしまうのです。これは、個人にとっては合理的でも、社会全体としては非効率です。
今回の改正案は、その歪みを完全に解消するものではありませんが、少なくとも問題意識が共有されていることを示しています。
税制だけでは解決できない問題
年収の壁の問題は、税制だけで解決できるものではありません。社会保険料の仕組みや、企業側の雇用慣行とも密接に関係しています。
税の非課税枠を動かしても、別の壁が残れば、家計の行動は大きく変わらない可能性があります。
そのため、今回の改正は「抜本改革」というより、「応急的な調整」と捉えるのが現実的です。
家計に求められる現実的な視点
家計側から見ると、年収の壁を前提に働き方を決めること自体が、今後ますます難しくなるかもしれません。制度は政治状況や財政事情によって頻繁に動くからです。
短期的な損得だけでなく、長期的なキャリアや収入の安定性を重視する視点が求められます。
結論
年収の壁を巡る議論は、税制が家計や働き方にどれほど大きな影響を与えているかを改めて浮き彫りにしました。今回の改正案は一定の前進ではありますが、根本的な解決には至っていません。
今後も税制は、物価や働き方の変化に応じて調整が続くと考えられます。家計にとって重要なのは、制度変更に振り回されるのではなく、長期的な視点で生活設計を行うことです。
参考
日本経済新聞「家計・企業の減税ずらり 来年度税制大綱、与党詰め」(2025年12月13日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
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