衆院選を前に、食品の消費税をゼロにするという公約が各党から相次いで打ち出されています。家計支援としては分かりやすい政策ですが、制度を支えてきた事業者の側から見ると、必ずしも歓迎一色とは言えません。とりわけ影響が大きいとされているのが、小規模な農家や食品関連事業者です。
本稿では、食品消費税ゼロが意味するものを、免税制度・インボイス制度との関係から整理し、農業分野を中心に実務的な影響を考えます。
食品消費税ゼロで何が変わるのか
食品の消費税率をゼロにする場合、消費者が支払う税負担は確実に軽くなります。一方で、事業者間取引における消費税の流れは大きく変わります。
現在、食品には軽減税率8%が適用されていますが、税率がゼロになれば、仕入れ時に支払う消費税も、販売時に預かる消費税も発生しません。その結果、これまで制度上存在していた「益税」の構造が消えることになります。
農家に多い免税事業者という現実
消費税制度では、売上高が年1000万円以下の事業者は納税義務が免除されます。免税事業者は、取引先から消費税相当額を受け取っても国に納付する必要がなく、その分が実質的な利益となります。
この免税事業者の割合が特に高いのが農林水産業です。農家の多くは小規模経営であり、結果として免税事業者が多数を占めています。食品消費税がゼロになれば、販売先から消費税を受け取ること自体がなくなり、これまでの収益構造が一変します。
農協特例とインボイス制度の関係
インボイス制度の導入により、免税事業者は原則として取引上不利になるとされてきました。しかし、農業分野には農協特例があります。
一定の条件を満たす農家がJAに出荷すれば、JAが農家に代わってインボイスを発行できます。この仕組みにより、農家は免税事業者のままでも取引上の支障を受けにくくなっています。
ところが、食品の消費税がゼロになれば、そもそもインボイスの必要性自体が薄れ、この特例の意味も失われます。制度に守られてきた構造が、静かに崩れる可能性があります。
課税事業者への転換と資金繰りの問題
食品消費税ゼロを機に、課税事業者へ転換する選択肢も考えられます。課税事業者になれば、仕入れ時にかかった消費税の還付を受けられるからです。
しかし、還付には申告手続が必要であり、実際に入金されるまでには時間がかかります。小規模農家にとっては、このタイムラグが資金繰りを圧迫する要因となります。制度上は中立でも、現実の経営には重い負担となりかねません。
農業以外にも広がる影響
食品消費税ゼロの影響は農業だけにとどまりません。外食業界では、持ち帰り食品との価格競争が一層激しくなる懸念があります。また、仕入税額控除が使えなくなることで、消費税の納税額が増え、資金繰りに影響が出る事業者も想定されます。
さらに、税率ゼロを免税として扱うのか、非課税とするのかによっても、制度の影響は大きく異なります。実務上の整理には慎重さが求められます。
結論
食品消費税ゼロは、家計支援としては分かりやすい政策です。しかし、その裏側では、免税制度やインボイス制度を前提に成り立ってきた事業者の収益構造が大きく変わります。
とくに農業分野では、長年制度に適応してきた小規模事業者ほど影響を受けやすく、移行措置や資金面での支援が不可欠です。消費者にとってのメリットだけでなく、制度全体の持続性と現場の実務をどう支えるのか。その視点が、今後の議論には欠かせません。
参考
・日本経済新聞 朝刊
食品消費税ゼロなら… 農家の特権 益税消える(2026年1月29日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

