物価高が長期化するなか、家計支援策として「食品の消費税ゼロ」が急浮上しています。衆院選を前に、与野党を問わず減税を公約に掲げる動きが広がりました。しかし、日本経済新聞社と日本経済研究センターが実施した経済学者調査では、食品消費税ゼロに反対する意見が88%に達しています。
なぜ、家計を助けるはずの政策に、これほど強い懸念が示されているのでしょうか。本稿では、経済学者の指摘と過去の政策の教訓を踏まえながら、食品消費税ゼロの是非を整理します。
食品消費税ゼロに反対が集中した理由
日経エコノミクスパネルでは、食料品の消費税率をゼロにすることで「日本経済にとってマイナスをプラスが上回るか」が問われました。結果は、「そう思わない」「全くそう思わない」が計88%に上りました。
反対理由として多く挙げられたのは、次の三点です。
第一に、物価対策としての効果が限定的である点です。供給制約が解消されないまま需要を刺激すれば、価格は下がらず、むしろインフレを助長する可能性があります。一時的に税率を下げても、流通段階で吸収され、消費者価格に十分転嫁されないという指摘もあります。
第二に、家計支援としての不公平性です。食料品の消費額は高所得層ほど大きいため、減税の恩恵も高所得層に厚くなります。低所得層支援を目的とする政策としては、効率性に欠けるという評価です。
第三に、財政と社会保障への悪影響です。消費税は国税収入の3割超を占める基幹税であり、社会保障財源として制度的に位置付けられています。ここを減税すれば、将来世代への負担先送りや、財政の信認低下につながるとの懸念が示されました。
「期限付き減税」が抱える構造的な問題
今回の議論では「2年間限定」「経過措置」といった期限付き減税が強調されています。しかし、過去の税制史を見ると、一度下げた税率を元に戻すことは極めて難しいのが現実です。
1990年代後半の定額・定率減税は、景気対策として始まりましたが、廃止まで約10年を要しました。終了時には「実質的な増税」と受け止められ、景気回復の足かせになったとの評価もあります。
消費税は生活に直結する税であり、税率を戻す局面では必ず強い政治的抵抗が生じます。期限付き減税は、開始よりも終了の方がはるかに困難な政策だと言えます。
消費税が果たしている役割をどう見るか
消費税は「逆進的」と批判されがちですが、一方で、景気や人口構造の変化に左右されにくい安定財源という重要な役割を担っています。
所得税や法人税と異なり、幅広い層が薄く負担する仕組みであるため、社会保障制度を長期的に維持するうえでは不可欠な税目です。実際、消費税法では社会保障や少子化対策への充当が明確に規定されています。
軽減税率の導入やインボイス制度も、この「広く薄く集める税」を前提に制度設計されてきました。食品の税率をゼロにすれば、これらの制度全体の整合性も揺らぎかねません。
代替策としての給付付き税額控除
多くの経済学者が、食品消費税ゼロに代わる政策として挙げているのが、給付付き税額控除です。
これは、税額控除と給付を組み合わせ、一定所得以下の世帯に重点的に支援を行う仕組みです。限られた財源で、より必要な層に的確な支援ができる点が評価されています。
制度設計や所得把握の精度といった課題はありますが、「一律減税よりも公平性と効率性が高い」という点では、専門家の見解は概ね一致しています。
結論
食品の消費税ゼロは、一見すると分かりやすい物価高対策に見えます。しかし、経済学者の多くは、効果の薄さ、不公平性、財政リスクという三つの観点から慎重な姿勢を示しています。
本当に問われているのは、「減税か否か」ではなく、「どのような支援が、誰に、どれだけ届くのか」です。短期的な世論受けではなく、社会保障と財政の持続可能性を見据えた政策議論が、いまこそ求められていると言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞「日経エコノミクスパネル 食品消費税ゼロ、反対88%」
・日本経済新聞「期限付き減税、波乱の過去 『元に戻す』は事実上増税」
・日本経済新聞「きょうのことば 消費税 税収の3割、負担偏りにくく」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
