防衛費を国内総生産(GDP)比2%水準まで引き上げる方針は、岸田政権下で一度大きな節目を迎えました。しかし、2025年末にかけて再び「2%超」が現実的な選択肢として浮上しています。その背景には、政権の枠組みの変化と、防衛財源をめぐる現実的な制約があります。本稿では、防衛増税が再び議論の俎上に載った理由と、その意味を整理します。
防衛費2%は「ゴール」ではなかった
政府はこれまで、安全保障関連3文書に基づき、防衛費をGDP比2%水準まで引き上げる方針を掲げてきました。22年当時に想定されていた名目GDPは約560兆円で、防衛費はおおむね11兆円規模と見込まれていました。
しかし、名目GDPはその後拡大し、24年度時点では約640兆円に達しています。同じ2%でも必要となる防衛費は約13兆円に増えます。防衛費の「比率目標」は、経済成長とともに自動的に金額を押し上げる仕組みを持っている点が重要です。
「2%超」論が現実味を帯びる理由
自民党内では、防衛費2%では不十分だとの認識が広がっています。周辺国の軍事動向や国際情勢を踏まえれば、韓国並みの3.5%、あるいはNATOが掲げる5%水準を意識すべきだという主張もあります。
仮に3.5%とすれば防衛費は22兆円規模、5%なら30兆円超が必要になります。これは、既存の歳出削減や国債発行だけで賄える水準ではありません。結果として、安定財源としての「税」が再び避けて通れない議論となっています。
連立の変化がもたらした政治的条件
今回の防衛増税議論で注目されるのは、連立の枠組みです。従来の公明党との連立では、増税を伴う防衛費拡大には慎重論が根強くありました。
一方、日本維新の会は安全保障政策に比較的積極的で、党内ではGDP比2%超を容認する意見も出ています。7月の参院選では防衛増税に反対を掲げたものの、12月の党内会合では現実路線への転換が示唆されました。復興特別所得税の付け替えによって、単年度の負担増を抑える工夫が容認論を後押ししています。
防衛増税の「タイミング」と実務的意味
政府・与党が想定する所得増税の開始時期は2027年1月です。これは、26年末までに安全保障関連3文書の改定と、防衛費の新たな水準を確定させる工程と連動しています。
防衛費を先に拡大し、財源を後追いで考えることは困難です。増税を見送れば、防衛費増額そのものが政治的に立ち行かなくなるという見方が、政権中枢で共有されつつあります。
野党の壁と「決めきれなさ」
もっとも、税制改正関連法案の成立には野党の協力が不可欠です。参院では与党が少数であり、国民民主党や立憲民主党はいずれも所得増税に慎重な姿勢を示しています。
防衛費の規模を先に決め、その後に増税を行うという手法に対しては、「規模ありき」との批判も根強くあります。防衛増税は、政策の必要性だけでなく、国民への説明力が強く問われる局面に入っています。
結論
防衛増税の再浮上は、単なる税負担の問題ではありません。GDP比という目標設定の特性、経済成長による防衛費の自然増、連立構造の変化が重なり合った結果です。2%は到達点ではなく、むしろ議論の出発点になりつつあります。
今後の焦点は、防衛費の水準をどこに定め、その負担を誰がどのように分かち合うのかという点に移ります。防衛増税は、安全保障と財政の両立をどう描くのかという、日本社会全体への問いでもあります。
参考
日本経済新聞
防衛増税、維新と連立で道筋 「GDP比2%超」へ布石(2025年12月19日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
