金利のある時代が戻ってきた 企業活動と家計をどう守るか

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

長く続いた超低金利時代が終わり、日本経済は「金利がある世界」へと確実に戻りつつあります。30年近く、金利の存在を実感する機会がほとんどなかった私たちにとって、この変化は家計にも企業経営にも大きな影響を及ぼします。特に2026年度には手形・小切手の廃止が本格化し、企業間決済の姿も大きく変わる時期を迎えます。
本稿では、金利上昇の意味を家計・企業・日本経済の視点から整理し、これからの備え方を解説します。

金利が「効く」社会が戻りつつある

日銀がマイナス金利政策を解除したことで、日本の金融・経済環境は転換点を迎えました。かつては年6%前後の金利が一般的で、資金調達や在庫回転の遅れがすぐにコスト増につながる時代がありました。

住友林業の市川会長が語るように、木材ビジネスでは仕入れから販売まで長い時間がかかり、社内金利は月単位で計算される世界でした。1日でも月をまたぐと翌月分の金利コストが発生する。営業現場は「金利と時間」を常に意識しなければならなかったのです。

金利とは単なる数字ではなく、企業の行動や経済活動そのものを規律づける仕組みでもあります。ゼロ金利の長期化は、この感覚を社会全体から薄れさせました。これから求められるのは、金利が動く環境に合わせて企業も家計も「金融感度を取り戻すこと」です。


住宅ローン・借入金に及ぶ影響

金利の重みを最も実感しやすいのは住宅ローンです。例えば3000万円の固定金利ローンでは、

  • 金利が1% → 2%に上がると
  • 返済総額は25年で423万円(約12%)、35年で617万円(約17%)増加

となります。毎月返済額の差だけを見ると小さく見えるかもしれませんが、長期で見ると家計への負担は確実に積み上がります。

また、国債の利払い費や企業の借入金コストも増加します。企業経営においては、金利上昇は「資金をどこに、どれだけ、どの期間使うか」という判断がこれまで以上に重要になります。借りて回す経営、長期の運転資金依存、在庫過多などのリスクは確実に増します。


手形文化の終焉が意味するもの

2026年度に紙の手形・小切手が廃止され、電子記録債権(でんさい)も支払い期日は60日以内が原則になります。
手形という仕組みは、戦後日本の企業間取引を支えてきた「信用と猶予」の装置でした。

しかし、長期手形に依存した資金繰りは、低金利時代だからこそ見過ごされてきた面もあります。金利が効き始めると、長い回収サイトは企業にとって一気に重荷になります。支払いサイトの短期化は、企業間の資金循環を健全化させる一方、キャッシュフロー管理をより厳格にする必要が出てきます。

「資金の重み」が増す時代には、

  • 売掛・買掛の適正化
  • 月次ではなく日次の資金繰り管理
  • 在庫・仕入れ・販売リードタイムの短縮
  • 過剰投資・過剰な借入依存の見直し
    といった改善が避けられません。

インフレ下の金利上昇との向き合い方

インフレ環境では、預金金利の上昇だけでは家計を守りきれません。実質金利(名目金利−インフレ率)を基準に判断する習慣を身につけることが重要です。

家計では、

  • 固定費の見直し
  • 住宅ローンの借り換え比較
  • 長期資産形成(インフレ耐性のある資産)
  • 金利変動に強いキャッシュフローの確保
    といった金融リテラシーが資産を守る鍵になります。

企業では、

  • 資本効率(ROIC)を伴う投資判断
  • 借入の長短バランスの見直し
  • 金利上昇分を吸収できる生産性向上
    が不可欠です。

結局、金利のある世界では「生産性向上こそが最大の防御」という原点に立ち返る必要があります。


結論

金利が上昇する局面は、企業にも家計にも多くの課題を突きつけます。しかし、金利は本来、経済の健全性を保つための重要な指標です。長いゼロ金利の時代に埋もれてしまった「資本の重み」「資金の時間価値」を再び意識することで、日本経済は持続的な成長に向けた好循環をつくることができます。

これからの時代に必要なのは、金利変動を恐れることではなく、
金利とともに歩むための知識・仕組み・判断力を再構築すること
です。企業も家計も、金融環境を「コスト」ではなく「成長の秩序を取り戻す仕組み」として捉え直すことが求められます。


出典

  • 日本経済新聞「金利のある時代へ 住友林業会長 市川晃」(2025年12月1日夕刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました