金はなぜ再び最高値圏にあるのか――中央銀行が変えつつある「金の意味」

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金(ゴールド)価格が再び最高値圏に接近しています。2025年12月時点で、国際指標となるロンドン現物価格は1トロイオンス4300ドル台まで上昇し、国内の金小売価格も史上最高値を更新しました。
この動きは単なるインフレヘッジや米国の利下げ観測だけでは説明しきれません。背景にあるのは、各国中央銀行による継続的かつ構造的な金購入です。とりわけ注目されているのが、新興国中銀の動きと、金の保有手段そのものの変化です。

米利下げ観測と金価格の関係

金価格は一般に、米国の金融政策と逆相関の関係にあります。利下げ局面では実質金利が低下し、利息を生まない金の相対的な魅力が高まるためです。
市場では、FRBが2026年に追加利下げに踏み切るとの見方が根強く、これが金相場の下支え要因となっています。ただし、今回の上昇局面の主役は、必ずしも金融市場の投資マネーではありません。

中央銀行が「高値でも買う」理由

ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2025年10月の中央銀行による金購入量は53トンと、前年同月以来の高水準となりました。注目すべきは、1トロイオンス4000ドルを超える歴史的高値圏でも、買い控えが見られなかった点です。
象徴的なのがブラジル中央銀行です。2025年9月に4年ぶりに購入を再開し、10月も追加購入に踏み切りました。1〜10月の累計購入量は、中国を上回っています。ブラジル中銀総裁は、価格水準を意識した投機ではなく、将来の逆風に備える準備高の強化だと明言しています。

「非ドル化」と金の役割

新興国中銀の金購入には、共通する構造的背景があります。それが外貨準備の「非ドル化」です。
米国は基軸通貨ドルを背景に、制裁や金融規制を外交・安全保障の手段として活用してきました。ロシア制裁はその典型例です。これを受け、多くの国がドル資産への依存度を下げ、政治リスクの及ばない資産として金を再評価しています。
ブラジルもまた、関税問題などで米国と対立した経緯があり、ドル一極依存への警戒感を強めているとみられます。金は信用リスクを持たず、どの国の負債でもない資産として、外貨準備の「中立的な核」になりつつあります。

中央銀行の顔ぶれが広がる意味

金購入は一部の国に限られた動きではありません。ポーランド中銀は外貨準備に占める金の比率を30%に高める目標を掲げ、停止していた買い入れを再開しました。
重要なのは、買い手の多様化です。特定国の一時的な政策ではなく、各国中銀が共通の課題意識を持って動いている点が、金の中長期的な需給構造を変えています。

金保有手段の変化――ETFとデリバティブ

もう一つの見逃せない変化が、中央銀行の金保有手段の多様化です。
従来、中銀の金保有は地金が中心でしたが、近年は現物裏付けのETFや先物・スワップなどのデリバティブを活用する例が増えています。インベスコの調査では、すでに16%の中銀が金ETFを保有しており、5年以内に投資予定とする中銀は21%に達しています。
ETFやデリバティブは、保管や輸送の手間を省きつつ、匿名性を保ったまま金の比率調整が可能です。この結果、統計に表れない中銀需要が存在している可能性も指摘されています。

「動かないマネー」としての金ETF

金ETFは本来、機関投資家やヘッジファンドによる機動的な売買を反映する市場とされてきました。しかし、長期保有を前提とする中銀が参加すれば、ETFの性格そのものが変わります。
短期売買の対象だった金ETFが、外貨準備の一部として長期間保有される「動かないマネー」になる可能性があり、これも価格の下支え要因となります。

結論

金価格の再上昇は、単なる相場循環ではなく、国際金融秩序の変化を映しています。
新興国を中心とした中央銀行は、ドル一極依存からの分散を進め、金を長期的な安全資産として組み込む戦略を明確にしています。この動きは短期的な価格変動を超え、10年、20年単位で金市場の構造を変える可能性があります。
金はもはや危機時の一時的な避難先ではなく、国家のバランスシートに組み込まれる「戦略資産」へと位置づけを変えつつあります。

参考

  • 日本経済新聞「金、再び最高値圏に ブラジルの購入規模、中国超え 中銀買い途切れず」(2025年12月19日)
  • World Gold Council, Gold Demand Trends
  • Invesco, Central Bank Asset Allocation Study

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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