2026年度の与党税制改正大綱において、「税収の偏在是正」が改めて明記されました。
その中心的な対象となったのが東京都です。
地方法人課税の再配分拡充や、固定資産税を巡る新たな偏在是正策の検討が盛り込まれたことに対し、東京都は強く反発しています。
小池知事は記者会見で「地方自治の否定」とまで述べ、都と国・地方の対立構図が鮮明になりました。
本稿では、今回の税制改正大綱を手がかりに、
なぜ「都の財布」が繰り返し議論の俎上に載せられるのか、
税収偏在論の背景と構造的な課題を整理します。
1.税制改正大綱が示した「東京都ターゲット化」
今回の税制改正大綱では、「都市と地方の持続的な発展」という文言が大幅に増え、その多くが東京都を念頭に置いた内容となりました。
具体的には、
- 法人事業税の再分配拡充を27年度大綱で結論づける
- 固定資産税についても「著しく税収が偏在している」として検討対象に加える
といった方針が示されています。
法人事業税・法人住民税の一部を国税化し、地方へ再配分する仕組みはすでに存在しますが、これにより東京都からは年間約1.5兆円が流出しているとされています。
都はこれを「税財源の収奪」と位置づけ、不合理だと主張してきました。
2.東京都の反論――「偏在」は本当にあるのか
東京都側の主張は一貫しています。
人口1人当たりの一般財源は全国平均程度であり、「東京だけが突出して豊か」という見方は誤りだ、というものです。
都が特に問題視しているのは、国が用いる算定方法です。
昼間人口(通勤・通学による流入人口)が十分に反映されておらず、
実際の行政需要が過小評価されていると指摘しています。
また、地方交付税制度についても、
地方が努力して税収を伸ばしても、その増収分の多くが交付税減額で相殺される仕組みを「成長の発想がない制度」と批判しています。
3.地方側の視点――広がる行政サービス格差
一方で、地方自治体や首都圏周辺県の見方は異なります。
総務省の有識者検討会の試算では、
東京都が独自に使える財源は他の道府県の約3.6倍に達し、
約2兆円規模の「財源超過」にあるとされました。
東京都は不交付団体であるため、税収が増えれば自由に使える財源が増えます。
その結果、
- 子育て支援(018サポート、保育料無償化)
- 水道基本料金の期間限定無償化
- 介護・保育人材への手厚い支援
といった施策が可能となり、
周辺自治体からは「人材も住民も都に吸い寄せられる」との懸念が示されています。
4.偏在是正は「根本解決」なのか
問題は、税収の再配分が偏在是正の本質的解決になっているのか、という点です。
企業本社機能の東京一極集中という構造が変わらない限り、
税の移転は「その場しのぎ」にとどまります。
にもかかわらず、本社移転や地域分散を本格的に促す税制・制度設計は進んでいません。
また、法人二税に依存する東京都財政は、
好景気時には強い一方で、経済危機には脆弱です。
リーマン・ショック時には1兆円規模の減収を経験しており、
税収調整が過度に進めば、将来の財政安定性にも影響しかねません。
結論
東京都の税収偏在は、確かに数字上は大きく見えます。
しかし、それは都市集中という国全体の経済構造の結果でもあります。
税収の再配分だけを繰り返すことは、
都市と地方の対立を深め、地方分権の流れにも逆行しかねません。
本来問われるべきなのは、
- 企業・人材が分散する経済構造をどう作るのか
- 成長する自治体が報われる制度設計をどう実現するのか
という、より根本的な視点です。
「都の財布」を定期的に狙い撃ちにする議論から一歩進み、
地方自治の原則に立ち返った抜本的な制度改革が求められているといえるでしょう。
参考
- 日本経済新聞「都の財布 再び標的に 与党税制改正大綱、税収の偏在是正明記」(2025年12月20日朝刊)
- 総務省 有識者検討会報告書(地方税財政に関する検討)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

