運用会社バックオフィスの外部委託が広がる背景と今後の展望

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資産運用会社のバックオフィス業務を外部に委託できる環境が整い、新興企業や信託銀行が参入を進めています。これまで運用会社はコンプライアンスや会計といった専門性の高い業務を社内で完結させる義務があり、特に中小の運用会社では人材確保やコスト面で大きな負担となってきました。2025年の改正金融商品取引法によって外部委託の幅が広がったことで、運用会社の新規参入のハードルが下がり、運用立国をめざす日本の市場に変化が起こりつつあります。

本稿では、改正の背景、業界への影響、個人投資家も含めた広範な意義について整理します。

1. 改正金融商品取引法がもたらしたバックオフィス業務の外部委託化

2025年5月施行の改正金商法は、運用会社が担ってきた法令順守・会計などの必須業務の外部委託を認める任意登録制度を導入しました。
登録要件は、資本金1000万円以上、十分な知識と経験を持つ担当者の配置などで、これらを満たした事業者に法定業務を委託できる仕組みです。

これにより、専門性の高いバックオフィス業務を外部に任せつつ、運用会社自身は本来の業務である投資判断・商品開発により多くの時間を割けるようになります。従来2年ほど必要と言われた新規参入準備期間が半年〜1年に短縮される可能性もあり、独立系の成長を後押しする要素が強まっています。


2. 参入を進める新興企業と信託銀行の動き

外部委託市場の拡大を見据え、新興企業と信託銀行が相次いで参入を表明しています。

  • 法律事務所系 レグコンパス
    法令順守(コンプライアンス)を中心とする受託を開始予定。規程づくり、当局への届出・報告、研修など運用会社が負担しがちな業務を代行します。
  • JAMPフィナンシャル・ソリューションズ
    投信の運営管理や法定帳簿の検証、リスク調査など、モニタリング領域まで幅広く担う方針です。
  • ASAリートパートナーズ
    REIT向けに特化した受託を計画し、専門的なコンプライアンス人材育成にも関与します。
  • 信託銀行(三菱UFJ信託・三井住友信託・みずほ信託)
    投信の基準価額算出といった既存の強みを生かし、会計業務を中心に受託分野の広がりを見せています。

また将来的には、新興企業と信託銀行の連携により、コンプライアンスと会計をワンストップで担う事業体が生まれる可能性も指摘されています。


3. 外部委託がもたらすメリットと業界構造の変化

外部委託が普及すると、中小運用会社や独立系の事業者にとって以下のようなメリットが大きくなります。

  • 固定費の削減(専門人材の雇用コスト低減)
  • 創業・参入のハードルが下がる
  • 運用や商品開発に人的リソースを集中できる

海外ではバックオフィスの外部化が進んでおり、欧州では管理専門のマネジメント会社が運営主体を担うモデルも存在します。日本でも同様の構造に近づく可能性があります。

結果として、商品ラインナップの多様化、手数料競争の強まり、投資家にとっての選択肢拡大といった効果が期待されます。


4. 一方で懸念される「画一化リスク」

外部委託が進むことで、法定開示書類の形式が標準化され、運用会社の思想や戦略が表現されにくくなる懸念も出ています。

新興運用会社の経営者からは、自社の世界観を反映させるコンプライアンス部門を自前で持つ重要性を指摘する声があり、外部委託と内製化の最適なバランスが今後の論点となりそうです。


結論

改正金商法によってバックオフィス外部委託の枠組みが整ったことで、日本の資産運用業界は「担い手の多様化」と「新規参入促進」という大きな転換点を迎えています。新興企業や信託銀行が受託市場に参入することで、運用会社が商品設計へ集中しやすくなり、長期的には投資信託の競争が激しくなる可能性があります。

一方で、運用会社の個性や戦略が埋没し、書類・運営モデルが画一化するリスクも無視できず、外部委託と独自性の両立が問われていくでしょう。

資産形成が重視される時代に入り、運用会社の体制整備や市場構造の変化は、投資家にとっても重要なテーマです。今回の制度改正が、日本の運用ビジネスをどのように進化させていくのか、今後の動きを丁寧に追う必要があります。


参考

  • 日本経済新聞「運用会社の事務受託へ 新興や信託銀、コンプラ・会計など」(2025年12月11日)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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