車購入時の課税「環境性能割」廃止が意味するもの――税制簡素化と地方財源の行方

FP

自動車を購入する際に課されてきた「環境性能割」が、廃止されることになりました。
2025年12月、自民党と国民民主党が合意し、2026年度税制改正大綱に盛り込まれる見通しです。環境性能割は燃費性能などに応じて課税される仕組みで、環境に配慮した車選びを促す目的を持っていました。一方で、税制が複雑になりすぎているとの批判も根強くありました。

今回の廃止決定は、自動車ユーザーの負担軽減という側面だけでなく、日本の自動車課税全体、さらには地方財政のあり方を考える上でも重要な転換点といえます。本稿では、環境性能割とは何だったのか、なぜ廃止に至ったのか、そして今後の課題について整理します。

環境性能割とはどのような税だったのか

環境性能割は、自動車取得時に課される地方税です。燃費性能や排出ガス性能に応じて、車両価格の0~3%が課税される仕組みでした。電気自動車(EV)など、一定の基準を満たす車は非課税とされていました。

この税は、かつて存在した「自動車取得税」が2019年に廃止された後、その代替として導入されたものです。単なる取得課税ではなく、環境負荷の小さい車を選ぶほど税負担が軽くなる設計となっており、環境政策と税制を結びつけた象徴的な制度でした。

一方で、購入時には消費税もかかり、保有段階では自動車税・軽自動車税、さらに重量税も課されます。自動車関連税制は「多重課税」との指摘が長年続いてきました。

なぜ廃止が決まったのか

今回の廃止の理由として、政府は「自動車ユーザーの負担軽減」と「税制の簡素化」を挙げています。
環境性能割は仕組みが分かりにくく、購入時にいくら税金がかかるのか直感的に把握しづらい税でした。また、環境性能に応じた優遇は、補助金制度や他の減税措置でも対応可能との考え方もあります。

さらに、自動車を巡る政策環境も変化しています。EV購入への補助金、EVへの重量課税導入の検討など、税と補助が複雑に絡み合い、制度全体の一貫性が問われる状況になっていました。その中で、取得時の税を一つ整理する判断がなされたといえます。

政治的には、少数与党下での税制協議の中で、国民民主党の要求を自民党が受け入れる形となりました。税制改正が、政策理念だけでなく政治力学の影響を強く受けることを改めて示す事例でもあります。

地方税収への影響と「国の責任」

環境性能割は地方税であり、2025年度の計画ベースでは約1,900億円の税収が見込まれていました。廃止によって、地方自治体の財源が減少することは避けられません。

この点について、両党は「安定財源を確保するための具体的な方策を検討し、それまで国の責任で手当てする」と合意しています。つまり、当面は国費で穴埋めを行う前提です。

ただし、ここには構造的な問題があります。地方税を廃止し、国が補填する形が常態化すれば、地方自治体の財政的な自立性は弱まります。税制簡素化と地方分権のバランスをどう取るのかは、今後も避けて通れない課題です。

自動車課税は今後どうなるのか

今回の環境性能割廃止によって、自動車取得時の税負担は確かに軽くなります。しかし、自動車関連税制全体を見ると、課題が解消されたわけではありません。

今後は、EVに対する重量課税の導入や、道路維持財源としての税負担の再設計などが議論される見通しです。環境負荷への配慮と、インフラ維持のための公平な負担をどう両立させるのかが問われます。

また、取得時・保有時・利用時のどの段階で税を負担するのが合理的なのかという根本的な整理も必要です。環境性能割の廃止は、その議論の出発点にすぎません。

結論

環境性能割の廃止は、自動車ユーザーにとっては分かりやすい負担軽減策です。同時に、日本の自動車課税が抱えてきた複雑さを見直す一歩でもあります。

一方で、地方税収の補填を国が担う構図や、今後予定される新たな課税との関係など、課題は残ります。税制を簡素にすることと、持続可能な財政をどう両立させるのか。今回の決定は、その問いを改めて私たちに突きつけているといえるでしょう。

参考

・日本経済新聞「車購入時の課税『環境性能割』廃止」2025年12月19日朝刊


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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