2026年度の与党税制改正大綱では、家計や企業への配慮を前面に出した減税策が相次いで盛り込まれました。年収の壁の引き上げ、全業種を対象とした設備投資減税など、一見すると歓迎されやすい内容です。
しかし、その一方で、減税に伴う財源の確保については具体的な議論が乏しく、財政運営の責任が問われています。本稿では、今回の税制改正を巡る論点を整理し、なぜ「財源なき減税」が問題視されるのかを考えます。
減税が先行した2026年度税制改正
今回の税制改正大綱では、所得税の非課税枠、いわゆる年収の壁が178万円まで引き上げられました。当初は低所得層への支援を想定していましたが、最終的には中所得層まで対象が広がり、減収規模は年間約6500億円に膨らんでいます。
また、全業種を対象とする設備投資促進減税の創設も決まり、企業側の税負担軽減策が拡充されました。いずれも経済対策として一定の意義はありますが、共通するのは恒久的な財源が示されていない点です。
政治状況が生んだ減税拡大
減税が目立つ背景には、政権基盤の弱さがあります。参院で過半数を持たない与党は、予算成立のために野党の協力を得る必要があります。
自民党と日本維新の会がまとめた税制改正大綱には、国民民主党の主張が色濃く反映されました。結果として、政策の整合性よりも合意形成を優先した印象が否めません。
また、税制調査会の中枢メンバーが積極財政寄りに入れ替わったことも、減税容認の空気を後押ししています。
時限措置という先送り
年収の壁の引き上げは2年間の時限措置とされました。これは恒久財源を示せないための苦肉の策とも言えます。
本来であれば、低所得層を重点的に支援する給付付き税額控除など、制度として持続可能な仕組みを同時に示すべきでした。しかし、具体化は今後に先送りされています。
時限措置は政治的な妥協としては便利ですが、問題の解決を遅らせる側面も持ちます。
インフレ下の「隠れた増税」
今回の改正では、所得税の税率区分そのものは見直されませんでした。物価が上昇する中で課税区分が据え置かれると、実質的に税負担が増える人が増えます。
これはインフレに便乗した形の増税とも言え、本来であれば調整が必要な論点です。ただし、財源不足が背景にある以上、見直しが見送られた事情も理解できます。
防衛財源と所得税
防衛力強化の財源として、復興特別所得税の税率を引き下げ、その代わりに所得税額の1%相当を防衛費に充てる仕組みが示されました。
法人税やたばこ税と合わせ、所得税という基幹税で広く負担を分かち合う考え方自体は合理的です。ただし、防衛費のさらなる増額が想定される中では、これだけで十分とは言えません。
安易に国債に頼るのではなく、税で賄うという原則をどこまで貫けるかが問われています。
自動車税制のちぐはぐさ
自動車関連では、環境性能割の廃止と同時に、EVに対する重量課税の導入が検討されています。一方で、エコカー購入補助金は拡充されました。
道路負担の公平性や脱炭素を掲げるなら、税と補助金の設計は整合的であるべきです。ガソリン税の旧暫定税率の扱いも含め、自動車税制全体の再設計が必要な段階に来ています。
本質的な議論から逃げていないか
減税を巡る議論で最も重要なのは、社会保障費という最大の歳出項目です。高齢化が進む中で、医療・介護・年金をどう効率化し、どの税で支えるのか。
消費税を含む安定財源の議論を避けたまま、減税だけを積み上げれば、財政は持続しません。政治的に難しいテーマほど、正面から向き合う必要があります。
結論
減税そのものが悪いわけではありません。問題は、財源の裏付けを欠いたまま政策が先行している点にあります。
弱い政権基盤の下で合意を優先した結果、制度の一貫性や将来像がぼやけてしまいました。
2026年度税制改正は、減税の是非以上に、日本の財政と税制をどう立て直すのかという根本的な問いを私たちに突きつけています。
参考
・日本経済新聞「財源の手当てなき減税先行は無責任だ」(2025年12月21日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

