診療報酬3.09%引き上げは誰のためか――現役世代の負担はなぜ軽くならないのか

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2026年度の診療報酬改定で、本体部分が3.09%引き上げられることが決まりました。30年ぶりの高水準とされ、医療機関の経営や医療従事者の賃上げを支える措置と説明されています。一方で、この改定は医療費全体を押し上げ、結果として現役世代の保険料負担を重くする側面も持っています。

同時に、OTC類似薬の患者負担見直しなど、医療費抑制を目的とした制度改革も打ち出されました。しかし、その効果は限定的とされ、現役世代の負担抑制にはなお距離があるという評価が一般的です。

今回の記事では、診療報酬改定の仕組みと影響を整理したうえで、なぜ現役世代の負担がなかなか軽くならないのかを考えていきます。

診療報酬引き上げの意味

診療報酬は、病院や診療所、薬局が保険診療を行った際に受け取る公定価格です。医師の診察や検査などの技術料にあたる「本体」と、医薬品の価格である「薬価」に分かれています。

2026年度は、このうち本体部分が3.09%引き上げられます。物価高や人件費の上昇を背景に、多くの医療機関が経営難に陥っていることが主な理由です。医療機関は自由に価格転嫁ができないため、公定価格である診療報酬の引き上げが唯一の調整手段となります。

医療現場を維持するため、一定の引き上げが必要であるという主張には合理性があります。

医療費と保険料の関係

問題は、その財源です。医療費はおおむね、保険料が約5割、国と自治体の公費が4割弱、患者の窓口負担が1割強で賄われています。診療報酬が引き上げられれば、医療費全体が増え、その分は保険料や公費、窓口負担の増加として国民に跳ね返ります。

目安として、診療報酬を1%引き上げると、医療費は約5000億円増え、そのうち保険料負担は約2500億円増えるとされています。今回の3.09%引き上げは、単純計算でも相当な負担増につながります。

とりわけ影響を受けるのが、保険料を主に負担している現役世代です。高齢者医療費の一部を現役世代の保険料で支える構造が続くなか、負担感は年々強まっています。

限定的にとどまる医療費抑制策

こうした状況を踏まえ、政府・与党は医療費抑制策としてOTC類似薬の患者負担見直しなどを盛り込みました。市販薬と成分や効能が似ている処方薬について、患者に追加負担を求める仕組みです。

対象は77成分、約1100品目とされ、医療費削減効果は年1880億円と見込まれています。ただし、当初構想されていた「保険適用除外」と比べると、効果は大きく縮小しています。

また、金融所得を保険料算定に反映させる改革や、高額療養費制度の見直しも検討されていますが、制度改正には時間がかかり、現役世代の負担軽減が実感できるのはまだ先になりそうです。

「実質負担なし」という説明の難しさ

2026年度からは、少子化対策の財源として医療保険料に上乗せする支援金の徴収も始まります。政府は賃上げ効果や歳出改革を踏まえ、「実質的な負担は生じない」と説明しています。

しかし、診療報酬の大幅引き上げと、医療費抑制策の効果の小ささを並べてみると、この説明に納得できる人は多くないかもしれません。負担増の要因が積み重なる一方で、抑制策は部分的にとどまっているからです。

結論

今回の診療報酬改定は、医療現場の維持という点では理解できる面があります。しかし、そのコストは確実に医療費を押し上げ、現役世代の保険料負担を重くします。

OTC類似薬の見直しなどの改革は一歩前進ではあるものの、規模としては診療報酬引き上げの影響を吸収するには不十分です。現役世代の負担抑制を本気で目指すのであれば、診療報酬以外の分野で、より踏み込んだ制度改革を積み重ねていく必要があります。

医療を守ることと、負担をどう分かち合うか。この難題に対する説明責任が、これまで以上に問われていると言えるでしょう。

参考

  • 日本経済新聞「現役世代の負担抑制遠く 診療報酬改定、医療費押し上げ」(2025年12月20日朝刊)
  • 日本経済新聞「診療報酬本体3.09%上げ 26年度、30年ぶり改定率」(2025年12月20日朝刊)
  • 日本経済新聞「診療報酬 医療サービスの公定価格」(2025年12月20日朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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