1. 総裁選の告示と候補者の顔ぶれ
2025年9月22日、自民党は石破茂首相の退陣を受け、総裁選を告示しました。
立候補したのは次の5人です(届け出順)。
- 小林鷹之 元経済安全保障相
- 茂木敏充 前幹事長
- 林芳正 官房長官
- 高市早苗 前経済安全保障相
- 小泉進次郎 農相
現行制度のもとで5人の出馬は2008年、2012年と並ぶ多さ。衆参両院で少数与党となった自民党にとって、政権基盤を立て直せる人材を選ぶ重要な選挙です。
投票は党員・党友と所属国会議員の計590票で10月4日に実施。1回目で過半数を得る候補が出なければ、上位2人による決選投票になります。
2. 経済政策:物価高対策と財政へのスタンス
今回の総裁選の最大の争点は「物価高対策」です。
- 小林氏:「現役世代が自由に使えるお金を増やす」ことを強調。定率減税や社会保険料の負担軽減を提唱。
- 林氏:規制緩和とGX(グリーントランスフォーメーション)を最優先課題に掲げ、成長戦略を重視。
- 茂木氏:「増税ゼロ政策」を堅持し、地方自治体が使い道を決める特別交付金を構想。
- 高市氏:減税や給付付き税額控除を公約に掲げ、中低所得者の支援を重視。従来の消費税減税から軌道修正。
- 小泉氏:所得税の基礎控除を物価・賃金に連動させる制度改革に意欲。「国民の切実な声に応える」と強調。
一方で、いずれの候補も「財源」や「財政再建」の具体策には踏み込みきれていません。GDP比240%に達する債務残高を抱える日本にとって、この空白は金融市場からの警戒を招きかねません。
3. 金融市場の反応:「小泉円高・高市株高」
市場関係者は候補者の経済スタンスを敏感に織り込み始めています。
- 小泉氏:財政健全化路線を引き継ぐとされ、円高要因との見方。株価には調整圧力も。
- 高市氏:積極財政・金融緩和色が強く、「高市トレード」と呼ばれる株高・円安期待が先行。
- 林氏・小林氏・茂木氏:石破路線の延長線上とされ、市場へのインパクトは限定的。
2024年総裁選でも「高市優勢」と織り込んだ市場が石破氏勝利で逆回転した前例があり、今年も相場の不安定要因になっています。
4. 野党との連携:少数与党下での政権運営
衆参で過半数を失った自民党にとって、野党との協力は不可避です。
- 茂木氏・高市氏・小泉氏:維新・国民民主との連立拡大に前向き。立民との協力も「給付付き税額控除」を軸に模索。
- 小林氏・林氏:早期の連立拡大には慎重。
野党との「部分連合」や政策協議を通じて、どこまで政権を安定させられるかが問われています。
5. 推薦人から見る支持基盤
各候補は立候補に必要な推薦人20人を確保。派閥色や年齢構成に特徴が出ました。
- 茂木氏:旧茂木派からの推薦が3分の2を占め、派閥色が濃厚。
- 林氏:旧岸田派出身者が中心、無派閥議員の多さも目立つ。
- 高市氏:旧安倍派・麻生派からの推薦が中心。安倍元首相の遺志を引き継ぐ色を出す。
- 小泉氏:幅広い派閥から推薦を得たが、旧安倍派ゼロ。最年少候補ながら推薦人の平均年齢は最も高い。
- 小林氏:平均年齢が最も低く、世代交代を掲げる姿勢を裏付ける。
派閥解消後も人的ネットワークは生き残っており、決選投票での連携模様にも影響しそうです。
6. 今後の展望
今回の総裁選は「経済再生」と「政治の安定」という二つの軸をめぐる戦いです。
- 物価高対策で国民生活をどう支えるのか
- 財政規律と積極財政のバランスをどうとるのか
- 野党との連携で安定政権を築けるのか
10月4日の投開票に向け、党内外の注目はますます高まっています。市場の変動リスクも含め、日本の進路を大きく左右する選挙となるでしょう。
📌 補足コメント(税理士FP視点)
物価高対策や経済再生の議論は、私たちの家計や中小企業の経営に直結します。補助金や減税は一時的な効果にとどまる可能性もあるため、制度の持続性に注目する必要があります。また、少数与党下での政権運営は不安定さを伴うため、将来の税制改正や社会保険制度の見直しも柔軟に備えておくことが重要です。
📌 参考記事:
- 「自民総裁選、経済・政治再生競う 5氏出馬」(2025年9月23日 日本経済新聞)
- 「総裁選、市場の見方 『小泉円高・高市株高』」(2025年9月23日 日本経済新聞)
- 「〈自民総裁選2025〉物価高対策 立て直し」(2025年9月23日 日本経済新聞)
- 「連立、維新・国民民主が軸 枠組み拡大検討」(2025年9月23日 日本経済新聞)
- 「推薦人、『派閥』色に濃淡」(2025年9月23日 日本経済新聞)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

