これまでの回で見てきたように、消費税は「消費者が負担し、事業者が預かる」という仕組みのもと、資金繰りに行き詰まった企業ほど滞納に陥りやすい構造を持っています。
しかし、消費税滞納の問題は単に「納税を怠った」という道徳的な非難で済む話ではありません。そこには制度そのものの歪みが存在し、企業の経営リスク、ひいては経済全体に影響を及ぼしています。
滞納が招く倒産の連鎖
消費税を滞納すると、すぐに「延滞税」という形でペナルティが課されます。さらに税務当局は強制執行権を持っており、預金口座や売掛金を差し押さえることができます。
こうなると、企業は資金ショートに直面し、取引先からの信頼も失い、事業を継続することが難しくなります。
東京商工リサーチの調査によれば、2024年度に税や社会保険料の滞納が原因で倒産した件数は 170件あまり。前年度比で約4割増え、過去10年間で最多でした。その多くに消費税滞納が絡んでいると見られます。
倒産実務に関わる専門家が口を揃えて言うのは、
「倒産に至る企業では、まず最初に滞納するのが消費税」
という現実です。
融資が止まる「レッドカード」
税や社会保険料の滞納は、企業にとって「レッドカード」に等しい扱いを受けます。
金融機関は融資を判断する際、税務状況を重視します。滞納があると「経営管理ができていない」と評価され、追加融資はもちろん、既存融資の条件変更すら難しくなります。
つまり、消費税の滞納は単なる一時的な資金難ではなく、企業の信用力そのものを揺るがす行為なのです。結果として、資金調達の道が閉ざされ、倒産の確率が一気に高まります。
「赤字でも納める」制度の負担
ここで改めて確認しておきたいのは、消費税は「赤字でも納める必要がある税」だという点です。
法人税や所得税は、利益が出なければ納税義務は発生しません。しかし、消費税は売上があれば必ず発生し、赤字であっても納めなければならない。
この特性が、特にコロナ禍のような「売上は落ち込むが固定費は残る」という状況で、中小企業を直撃しました。
納付時期の問題
現行制度では、売上規模によって消費税の納付回数は異なります。
- 年商5,000万円以下:年1回
- 年商5,000万円超:年2回または4回
- 大規模企業:原則として年12回(毎月)
小規模事業者にとっては「納付回数を減らすことで事務負担を軽くする」狙いがありますが、これが逆に滞納リスクを高めています。
納付時期が1年に1回だと、その間に預かった消費税は数百万円から数千万円単位で積み上がります。資金繰りに困ったとき、この金額に手を付けてしまえば、納付時期に大きな穴が空いてしまうのです。
「毎月納付」論とその限界
税理士団体などからは、こうしたリスクを減らすために「すべての事業者に毎月納付を義務づけるべきだ」という提案が出ています。
- 預かり金を手元に置かせない
- 流用を防止する
- 納税意識を高める
という狙いです。
しかし一方で、毎月納付は小規模事業者にとって過大な事務負担となる可能性があります。特に経理担当がいない個人事業主や小規模法人では、申告・納付の回数が増えることは現実的でないという声も強いのです。
制度の「合理化」と「現場の負担」の間で、いまだ解決策は見えていません。
制度的な歪み
消費税滞納の問題を突き詰めると、制度そのものに潜む「歪み」が見えてきます。
- 赤字企業にも課税される → 弱い企業ほど追い詰められる
- 納付のタイムラグが長い → 資金流用のリスクが高まる
- 事業者が「代理納税者」 → 消費者の税を企業が管理するという不自然さ
この仕組みは、事業者に「税の代行業務」を担わせているとも言えます。つまり、国にとっては効率的でも、企業にとっては大きなリスクを押し付けられているのです。
まとめ:制度の見直しは避けられない
消費税滞納は、単に一部の企業のモラルの問題ではありません。
- 「赤字でも納税義務がある」構造
- 「納付のタイムラグ」という制度設計
- 「代理納税者」としての事業者の立場
これらが重なり、滞納という結果を生んでいます。
国民にとって最も身近な税でありながら、企業にとっては「経営リスクの火種」となっている消費税。制度の歪みを放置すれば、今後も滞納ドミノが続き、社会全体の税制度への信頼を揺るがす可能性があります。
次回は、この問題がさらに象徴的に現れた「自治体による消費税滞納」という驚くべき事例を取り上げます。徴収する側である自治体すら滞納していた──その事実は、消費税制度の信頼性を根底から問い直すものです。
📖参考
「消費税、年5000億円の滞納ドミノ 資金難で手を付けた『預かり金』」日本経済新聞(2025年9月29日)
記事はこちら
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
