自民党の高市早苗新総裁が就任会見で打ち出した政策の柱が、「責任ある積極財政」。
中低所得者を対象にした「給付付き税額控除」と並んで、ガソリン税・軽油税の旧暫定税率廃止、
そして赤字企業への賃上げ支援が注目を集めています。
いずれも“即効性のある景気対策”を意識した政策ですが、財源と持続性の両立が問われる、難しいテーマでもあります。
◆ ガソリン価格をどう下げるのか
高市氏は会見で、
「ガソリンと軽油の価格が実際に下がるまでは補助金を活用して価格を下支えする」と述べました。
そのうえで、旧暫定税率(ガソリン約25円/軽油17円)を臨時国会で廃止する方針を示しました。
もし完全に廃止すれば、
ガソリン価格は全国平均で1リットルあたり25円前後の値下げ効果があります。
月60ℓ程度を使う家庭なら、単純計算で月1,500円前後の負担軽減。
物価高で圧迫される家計にとっては確かに助かります。
ただし、この政策は“痛み止め”であって、治療薬ではないことも事実です。
◆ 年1.5兆円の財源をどう確保するか
ガソリン・軽油の旧暫定税率を外すと、
国・地方合わせて年間約1.5兆円の税収減になると見込まれています。
政府は、
- 税収の上振れ分
- 既存基金の取り崩し
などで当面をしのぐ考えですが、恒久財源にはなりません。
野党からは、
- 法人税の特別措置の見直し
- 金融所得課税の強化
- 自動車関連税の再編
などを財源候補として挙げる声もあります。
一方で、
燃料価格の変動は世界情勢や為替の影響を大きく受けるため、
“恒久減税”に踏み切ると財政が不安定化するリスクもあります。
重要なのは、「値下げありき」ではなく、
エネルギー価格の安定策としてどう位置づけるかです。
一時的な措置にとどめ、基準価格と連動した弾力運用を導入するなど、柔軟な仕組みづくりが必要です。
◆ 「責任ある積極財政」とは何か
「積極財政」という言葉だけを聞くと、“バラマキ”を連想する人も少なくありません。
しかし高市氏は会見で、
「財政の健全化が必要ではないと言ったことは一度もない」
と強調しています。
つまり、目的は“拡張”ではなく、支出の選択と集中にあります。
特に、現場で厳しいのは赤字が続く中小企業です。
この層への支援をどう設計するかが、今回の補正予算の核心になります。
◆ 赤字企業への賃上げ支援 ― 現行制度の「穴」を埋める
現行の「賃上げ促進税制」は、法人税を減税する仕組みのため、赤字企業には恩恵が届かない構造になっています。
高市氏はこの点に言及し、「赤字でも賃上げを行う企業を補正予算で支援する」と発言しました。
ここで想定されるのは、
- 一時的な給付金・交付金方式
- 地方自治体を通じた賃上げ補助
- 業種ごとの生産性向上投資支援との連動
の3つのパターンです。
中小・小規模事業者は、エネルギー・人件費・仕入れコストの“三重苦”に直面しています。
賃上げの意欲があっても、利益が出ないと固定費負担が怖くて動けない。
その「心理的ハードル」を下げる施策が求められています。
◆ “賃上げできる赤字企業”とは?
ここで一つ注意が必要です。
賃上げ支援の対象を「赤字企業全体」に広げると、モラルハザード(不正受給や賃上げ偽装)の懸念が出てきます。
そのため、
- 雇用維持や生産性向上への具体的取り組みを条件とする
- 業績改善計画や経営行動計画の提出を求める
などの要件設定が想定されます。
単なる補助ではなく、“未来への投資型支援”にできるか。
ここに「責任ある積極財政」の真価が問われます。
◆ 家計・企業の現場から見れば
この二つの政策――燃料減税と賃上げ支援――には、共通点があります。
それはどちらも、「今の痛みをやわらげつつ、次の成長につなげる」という狙いです。
家計にとっては、燃料費の軽減で消費余力がわずかに回復。
企業にとっては、賃上げ支援が人材確保と生産性投資の後押しになる。
ただし、どちらも「時限的支援」で終われば、再び同じ課題が戻ってきます。
長期的には、持続的な賃金上昇と物価安定の両立――
つまり「日本型好循環」の再構築が必要です。
◆ 次回予告
最終回となる第3回では、
政府・日銀・市場の関係に焦点を当てます。
高市政権の“積極財政”は、
円相場や金利、株式市場にどんな影響をもたらすのか。
また、企業トップや党員の声に見える「期待と不安」を踏まえ、日本経済の行方を展望します。
📘 出典:
2025年10月4日 日本経済新聞朝刊
「高市氏『積極財政』鮮明に」「給付付き税額控除議論へ」ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
