前回の記事では、転職時に放置された確定拠出年金(DC)の資産が3,000億円を超えている現状を解説しました。
今回は、すでに企業型DCを「放置してしまった人」や「これから転職する人」に向けて、個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換手続きの流れと注意点を具体的にまとめます。
手続きを知っておくことで、老後資産を再び運用の軌道に戻すことができます。
■ ステップ①:自分のDC資産の所在を確認する
まず最初にやるべきことは、「自分の年金資産が今どこにあるのか」を確認することです。
退職後6カ月を過ぎていれば、資産は国民年金基金連合会に自動移換されています。
心当たりがある人は、以下の方法で確認できます。
- 国民年金基金連合会の「自動移換者専用ページ」から検索
- 「企業型DCを運営していた金融機関」または「前職の人事担当者」に問い合わせ
自動移換されている場合、連合会から「自動移換通知書」が郵送されています。この通知書に記載された「管理番号」が、次の手続きで必要になります。
■ ステップ②:iDeCoを運営する金融機関を選ぶ
iDeCoは金融機関ごとに運用商品や手数料が異なります。
選ぶポイントは次の3つです。
- 運営管理手数料が安いこと(無料または月171円程度が多い)
- 投資信託の品ぞろえが豊富で信託報酬が低いこと
- ネットで手続きや残高確認が簡単にできること
例:SBI証券、楽天証券、マネックス証券、野村證券などが主要な選択肢です。
■ ステップ③:iDeCo口座の申込と移換手続き
選んだ金融機関のウェブサイトから「iDeCo加入(または移換)申込」を行います。
申込書を取り寄せて記入・返送すると、金融機関が国民年金基金連合会に移換を依頼します。
必要書類は次のとおりです。
- 「個人型年金加入申出書」
- 「個人番号(マイナンバー)確認書類」
- 「本人確認書類(運転免許証など)」
- 「自動移換通知書」または「管理番号」
手続き完了までに1〜2カ月程度かかるのが一般的です。
その後、iDeCo口座に資産が移り、通常の運用を再開できます。
■ ステップ④:移換後の運用商品を選ぶ
移換が完了したら、改めて運用商品を選びます。
自動移換中は運用が止まっていたため、ここからが“再スタート”です。
運用商品は、
- バランス型(分散投資)
- 国内外株式型
- 債券型
- 定期預金型
などから選択できます。
老後までの期間が長いほど、株式比率を高めて積極的に運用するのが一般的です。
■ ステップ⑤:転職時の注意 ― 再び「放置」しないために
今後も転職の可能性がある人は、次の2点を意識しておきましょう。
- 退職したらまず企業年金担当に移換先を伝える
- 転職先がDCを導入していない場合はiDeCo継続を選択する
企業型DCからiDeCoへ移す場合も、iDeCoから新しい企業型DCへ移す場合も、手続き期限は原則6カ月以内です。
この期間を過ぎると、また自動移換されてしまうため注意が必要です。
結論
確定拠出年金は、転職や退職のたびに“引っ越し”が必要な制度です。
自動移換されたままでは、手数料だけが引かれ、運用の果実を得られません。
一度手続きを済ませれば、iDeCoとして再び「自分の老後資産」を育てることができます。
放置された資産を取り戻すことは、言い換えれば「自分の未来を取り戻す」ことです。
転職が当たり前の時代だからこそ、年金資産の引継ぎも“キャリア管理”の一部として意識していきましょう。
出典
- 日本経済新聞「確定拠出年金『放置』3300億円」(2025年10月28日付)
- 国民年金基金連合会「個人型確定拠出年金(iDeCo)制度のご案内」
- 金融庁「iDeCoナビ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
