第三者承継が地域経済を救う時代へ(第2回)承継スキームと税務の基本を押さえる

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第三者承継の重要性が高まる中で、どの方式で事業を引き継ぐかという「承継スキーム」の選択は、売り手にも買い手にも大きな影響を与えます。税務負担、手続きの複雑さ、事業リスク、承継後の経営のしやすさなど、スキームごとに異なる特徴があるためです。

特に第三者承継は、親族承継と違って「ゼロからの交渉」が多く、専門家による助言が欠かせません。最適なスキームを選べるかどうかが、承継の成否を大きく分けると言えます。

本稿では、中小企業の承継で利用される主なスキームである「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」「合併」について、それぞれの特徴と税務上のポイントを整理しながら、第三者承継に必要な基礎知識を解説します。

1 株式譲渡:最も利用される基本スキーム

株式譲渡は、経営者(株主)が保有する株式をそのまま買い手に渡し、会社の所有権を移転する方法です。中小企業のM&Aでは最も多く利用されています。

株式譲渡の最大の利点は、会社そのものは変わらないため、事業活動をほぼそのまま継続できることです。従業員との雇用契約、取引先との契約、許認可、知的財産、設備などは原則として承継時のまま引き継がれます。

買い手からすると、この継続性の高さは魅力ですが、同時に注意すべきポイントもあります。会社の負債や簿外債務、過去の契約内容もそのまま引き継ぐため、財務・法務のデューデリジェンス(精査)は欠かせません。

税務上は、売り手は譲渡所得扱いとなり、税率20%(所得税15%+住民税5%)が適用されます。これは他のスキームと比べて税率が低く、売り手にとって非常に有利です。株式譲渡が選ばれやすい理由のひとつは、この税負担の軽さにあります。


2 事業譲渡:リスクを限定しやすい選択肢

事業譲渡は、会社の資産や契約などを「選んで」引き継ぐ方式です。たとえば、店舗設備だけ、顧客情報だけ、製造設備だけ、というように、必要な部分だけを取得できます。

この選択性は買い手にとって大きなメリットです。簿外債務や不要な資産を引き継がずに済むため、後から不意のリスクを抱える可能性が低くなります。

一方で、売り手の側には税務面の注意点があります。事業譲渡で受け取る代金は「事業所得」または「譲渡所得」として扱われ、総合課税となります。所得が大きくなると税率は最大55%に達することもあり、株式譲渡に比べて大きな差が生じます。

また、事業譲渡では個別契約の移転手続きが必要となります。雇用契約の再締結や、許認可の引き継ぎ、賃貸借契約の変更などが発生するため、手続きは比較的複雑です。第三者承継で事業譲渡を選ぶ場合は、事前準備を慎重に進める必要があります。


3 会社分割:承継する部分を切り出す

会社分割は、事業の一部を切り出して別会社に移す手法で、M&Aの一部として利用されることがあります。分割には「吸収分割」と「新設分割」があり、吸収分割では既存の会社が事業を引き継ぎ、新設分割では新しく会社を設立して引き継ぎます。

会社分割は契約・許認可が包括承継されるため、事業譲渡よりも手続き負担が軽くなる場合があります。とくに許認可の再取得が難しい業種では、有効な選択肢になることがあります。

ただし、会社分割を実施するには株主総会の決議が必要で、法務面の手続きが複雑になります。そのため、実務では規模の大きい承継やグループ企業内の再編で使われることが多いスキームです。


4 合併:会社ごと引き継ぐ大胆な方式

合併は、会社が別会社に吸収されるか、新しい会社として統合する方法です。承継後は法人格自体が変わるため、権利義務は包括的にすべて引き継がれます。会社の規模や事業内容が大きい場合に選択されやすいスキームです。

しかし、中小企業の第三者承継では、合併が使われるケースはそれほど多くありません。手続きが重く、株式譲渡や事業譲渡で対応できる範囲が多いためです。


5 営業権(のれん)と税務の関係

第三者承継でよく話題になるのが「営業権(のれん)」です。これは、店舗ブランド、顧客基盤、取引先関係といった、数値化しにくい価値を指します。

事業譲渡の場合、買い手が取得したのれんは原則5年で償却できます。これは税負担の軽減につながるため、買い手にとってはメリットです。

一方、株式譲渡ではのれんの償却ができない点が異なります。そのため、買い手にとってどちらのスキームが有利かは、のれんの扱いによって変わることがあります。


6 第三者承継における税務の注意点

第三者承継では、売り手・買い手双方が税務の影響を受けます。主な注意点は次のとおりです。

1 株式譲渡は譲渡所得扱いで税率20%
2 事業譲渡は総合課税で最大55%になる可能性
3 事業譲渡は消費税課税、株式譲渡は非課税
4 のれん償却は事業譲渡で可能
5 第三者承継は事業承継税制の対象外(原則)

特に税率の差は大きく、承継価格の交渉にも直結します。税務の誤解があると、売り手にとって想定以上の税負担となる可能性があるため、早期の専門家相談が重要です。


7 スキーム選択を失敗しないための視点

スキームは「税金の安さ」だけで選ぶべきではありません。次の視点を踏まえることが重要です。

・承継後の事業をどのように運営するか
・雇用契約や許認可がどの程度影響を受けるか
・買い手が負債を引き継いでよいかどうか
・設備投資や追加の資金需要があるか

スキーム選択は「未来の経営体制をどうつくるか」に直結します。第三者承継では、売り手と買い手の双方が中長期的な視野を持って検討することが必要です。


結論

第三者承継は、事業を存続させるだけでなく、経営の刷新や事業成長につなげるチャンスにもなります。そのためには、スキームの違いを理解し、税務・法務・財務の観点から適切な判断を行うことが重要です。

株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併のうち、どれを選ぶかによって手続き、リスク、税負担は大きく変わります。正しい選択を行うためには、早期から専門家と連携し、承継後の経営を見据えた準備が欠かせません。

第三者承継は、後継者を見つけづらい中小企業にとって、未来への新しい選択肢です。その可能性を十分に活かすためにも、スキームと税務の基本を押さえることが第一歩になります。


参考

・中小企業庁「事業承継ガイドライン」
・日本経済新聞(2025年12月6日 記事を参考)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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