第三者承継が地域経済を救う時代へ【第7回】承継後100日のアクションプラン 信頼と数字を同時に固める「4つのフェーズ」

FP
ブルー ピンク イラスト メリットデメリット 比較 記事見出し ブログアイキャッチ - 1

事業承継の契約が締結され、名義変更も済んだとしても、それはゴールではなくスタートです。本当に重要なのは、承継後の「最初の100日」をどう使うかです。

この期間に、従業員・取引先・金融機関・顧客などとの信頼関係を築けるかどうか、そして事業の実態をどこまで具体的な数字で把握できるかが、承継後の方向性を大きく左右します。

今回は、承継後100日間の動きを

  • 0〜30日
  • 31〜60日
  • 61〜100日
    の4つのフェーズに分け、具体的なアクションプランとして整理します。

フェーズ0:承継前〜クロージング直前

——「100日プラン」を描いておく

承継前の準備として、少なくとも次の三点は整理しておきます。

  1. 旧経営者との役割分担・関わり方
    • いつまで・どの程度、現場に残ってもらうのか
    • 顧客や従業員への紹介はどう行うのか
  2. 主要ステークホルダーのリストアップ
    • キーパーソン(従業員)
    • 大口顧客
    • 重要取引先・仕入先・金融機関
  3. 承継後100日間の「優先順位リスト」
    • すぐに変えること
    • 当面は変えないと決めること

ここでの準備があると、承継日以降の動きがぶれにくくなります。


フェーズ1:0〜30日

——「知る」「聞く」「紹介してもらう」期間

最初の1カ月は、変えるよりも「知ること」「信頼の土台作り」が中心です。

(1)全従業員との顔合わせ・方針共有

  • 挨拶会の場を設ける
  • 自己紹介と、事業に対する考え方や大切にしたい価値観を伝える
  • 「すぐに大きな変更はしない」ことを明言する場合も多い

(2)キーパーソンとの個別面談

  • ベテラン社員、現場リーダー、経理担当など
  • 現状の課題や改善したい点を「聞く」ことに徹する

(3)主要顧客・取引先へ旧経営者同席での挨拶

  • 旧経営者が「この人に託す」と紹介することで信頼を補完
  • 当面の取引方針を丁寧に説明

(4)数字の把握と最低限の管理項目の設定

  • 日次・週次でチェックすべき数字を決める
  • 資金繰り表の作成(短期の資金繰りを可視化)

このフェーズは、「現場の空気と数字の現在地をつかむ」ことに集中します。


フェーズ2:31〜60日

——小さな改善と「勝ちパターン」の発見

二つ目のフェーズでは、現場の負担にならない範囲で改善を試していきます。

(1)すぐにできる業務改善を一つ実行

例としては

  • 書類や棚の整理
  • 会議時間の短縮
  • 在庫管理の簡素化 など

日々のストレスを減らす小さな改善は、現場との信頼関係づくりに役立ちます。

(2)収益の構造を深掘りする

  • 計上済みの売上・粗利の分析
  • どの商品・サービスが利益を生んでいるかを把握
  • 不採算の取引がないか洗い出す

「どこで稼げていて、どこで苦労しているのか」を知ることで、今後の重点領域が見えてきます。

(3)旧経営者との役割整理

  • いつまで顧客対応に残ってもらうか
  • どの範囲で意見を求めるか

この段階で、徐々に新体制への移行を進めていきます。


フェーズ3:61〜100日

——中期の方針と「変えること・守ること」の線引き

3つ目のフェーズでは、「当面の方向性」を明確に示していきます。

(1)今後1〜2年の簡易な事業方針を示す

  • 守るべき強み(看板商品・サービス・地域とのつながり)
  • 見直したい部分(価格設定、営業時間、メニュー構成など)
  • 新しく挑戦したいこと

詳細な中期経営計画まで作り込む必要はありませんが、「何を優先するか」を言葉にして共有します。

(2)金融機関・専門家への報告

  • 承継後100日で分かった現状と、今後の方針を説明
  • 必要に応じて運転資金や設備投資の相談

第三者承継では、金融機関との関係が事業の安定性に直結します。

(3)チームづくりの第一歩

  • 現場リーダーと定例ミーティングを設定
  • 人事評価・処遇の考え方を少しずつ共有
  • 教育・研修の方向性を検討

フェーズ4:100日以降へのつなぎ

100日が経過するころには、

  • 現場の主な課題
  • 数字の傾向
  • キーパーソンの顔ぶれ
  • 外部支援の窓口(金融機関・専門家)
    がおおむね見えてきます。

この段階で、「次の100日」で実行したいことを整理し、

  • 売上拡大策
  • コスト構造の見直し
  • 新サービスの試験導入
    など、中期的な改善策を計画していきます。

結論

第三者承継の成否は、契約条件だけでなく、承継後の100日間の動き方に大きく左右されます。

ポイントは次の3つです。

  1. 最初の100日は「大改革の期間」ではなく、「信頼と現状把握の期間」と捉える
  2. 小さな改善と対話を積み重ね、現場との距離を縮める
  3. 数字と人の両面から事業を理解し、次の一歩につなげる

承継は一度きりのイベントではなく、数年かけて進むプロセスです。100日という一つの区切りを意識することで、焦り過ぎず、しかし立ち止まり過ぎない進め方がしやすくなります。


参考

・中小企業庁「M&A・事業承継の手引き」
・日本政策金融公庫「事業承継後の経営に関する調査」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました