税収増時代に問われる「使い道」――減税か、社会保障か、将来投資か

政策

物価上昇が続くなか、国の税収は7年連続で増加しています。令和8年度当初予算では、税収は83兆7350億円と過去最高を更新する見込みです。コロナ禍前の58兆円台と比べると、実に4割近い増加です。

一方で、家計は物価高に苦しみ、実質賃金は伸び悩んでいます。企業収益や名目GDPは拡大しても、国民の体感景気は必ずしも改善していません。この「税収増」と「家計負担増」のねじれをどう考えるか。税収増の使途をめぐる議論は、単なる財政論を超え、世代間の負担と給付の構造そのものを問い直す局面に入っています。

本稿では、税収増の背景を整理したうえで、使途をめぐる主要論点を検討します。


税収増はなぜ起きているのか

現在の税収増は、主に三つの要因によって支えられています。

第一に、物価上昇による名目経済の拡大です。消費税は価格に比例して増加します。物価が上がれば、同じ数量でも税収は増えます。

第二に、企業収益の回復です。円安や価格転嫁の進展により、法人税収は堅調に推移しています。

第三に、所得税の増収です。賃上げが進めば、名目所得の増加に伴い所得税収も増えます。物価上昇に比べて実質賃金が追いつかない場合でも、名目ベースでは課税所得は拡大します。

つまり、現在の税収増は、国民が豊かになった結果というよりも、名目経済の拡大による部分が大きいといえます。この点が、使途議論を難しくしています。


減税財源に充てるべきか

衆院選を受け、食料品の消費税率を2年間ゼロにする案が議論されています。対象税収はおよそ5兆円規模と見込まれます。

税収が増えているのだから、その一部を減税に回すべきだという主張には一定の合理性があります。物価高による実質負担増を緩和する意味もあります。

しかし、税収増は恒久的なものとは限りません。景気変動や金利上昇、為替動向によって変動します。恒久的支出や恒久減税に充てるには、安定性に疑問が残ります。

また、消費税は社会保障財源として位置づけられています。軽減税率を含む複雑な制度設計の中で、時限的なゼロ税率を導入すれば、将来的な「元に戻す」議論は容易ではありません。制度の信認にも影響します。

減税は選択肢の一つですが、それだけで議論を完結させることはできません。


先送りされてきた支出課題

税収増がもたらすもう一つの論点は、「これまで財源不足を理由に先送りされてきた改革をどうするか」です。

具体的には、

  • 医療制度の持続可能性確保
  • 年金制度の給付と負担の見直し
  • 介護人材の処遇改善
  • 防衛費の増額
  • 子育て支援の恒久財源確保

といった分野です。

いずれも巨額の財源を要し、将来世代への影響も大きいテーマです。税収増を一時的な減税に回すのか、それとも制度改革の原資とするのか。これは政治的判断であると同時に、社会的合意形成の問題でもあります。


世代間の不均衡という論点

税収増の使途を議論する際、避けて通れないのが世代間の負担構造です。

現状では、現役世代は社会保険料負担が重く、可処分所得の伸びが抑えられています。一方、高齢世代は医療・年金給付を受ける立場にありますが、資産保有状況は世帯によって大きく異なります。

「低負担・中給付」とされる高齢世帯、「高負担・中給付」とされる現役世帯という構図が指摘されますが、実態は一様ではありません。

税収増をどう使うかは、この構造の是正にどう向き合うかという問題でもあります。給付の重点化なのか、負担の再配分なのか、あるいは将来投資への振り向けなのか。短期的な人気取りではなく、中長期的な持続可能性の視点が必要です。


透明な議論の必要性

国政選挙が当面予定されていない今こそ、負担と給付の全体像を整理し、国民的議論を深める機会といえます。

税収増は、財政余力の拡大を意味する側面があります。しかし同時に、インフレという形で家計が負担している側面もあります。

重要なのは、

  • 税収増の内訳を明示すること
  • 一時的増収と構造的増収を区別すること
  • 減税・給付・制度改革の優先順位を示すこと
  • 将来世代への影響を説明すること

です。

財源が「あるかないか」という単純な二元論ではなく、「どの目的に、どの期間、どの世代に帰属させるのか」という設計論が求められます。


おわりに

税収増は歓迎すべき現象のように見えますが、その背景には物価上昇という家計負担があります。

減税か、社会保障改革か、将来投資か。どの選択もメリットとコストを伴います。だからこそ、透明な場で、前提条件を共有しながら議論することが不可欠です。

税収増の使途をめぐる議論は、単なる財政テクニックの問題ではありません。それは、日本社会が「どの世代を、どの程度、どの順番で支えるのか」という価値判断の問題です。

今求められているのは、短期的な政策効果ではなく、持続可能な負担と給付の設計です。


参考

・日本経済新聞 朝刊 2026年2月14日「税収増の使途、透明な議論を」(大機小機)
・財務省 令和8年度予算案 関連資料(2026年1月公表)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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