税金の話は、原則として「その時点で分かっている事実」に基づいて手続きを行います。
会社や個人が、法律や通達に従って申告や源泉徴収をしていれば、それで問題はないはずです。
ところが税務調査では、あとから事実関係の見方が変わることがあります。
その結果、当初は正しいと思っていた処理が、結果的に誤りだったと扱われ、追加の税金や加算税の対象になることがあります。
本稿では、税務調査という「後から起きた出来事」によって課税関係が変わる場合でも、なぜ十分な救済が用意されていないのか、その不思議さを一般の方にも分かる形で整理します。
税務調査は「過去の判断」を変えることがある
税務調査というと、「申告漏れを見つけるもの」という印象を持たれがちです。
しかし実際には、単なる計算ミスだけでなく、前提そのものが違っていたと判断されるケースがあります。
代表的なのが、
- 日本に住んでいるかどうか(居住者・非居住者)
- どの所得が課税対象になるか
といった判断です。
これらは、調査の結果を踏まえて事後的に確定することがあり、その時点で初めて「本来は別の手続きが必要だった」とされることがあります。
例① 住んでいないと思っていたら「住んでいた」ことにされた場合
海外勤務などで非居住者として扱われていた人が、税務調査の結果、日本の居住者と認定されることがあります。
この場合、給与の税金の計算方法が変わります。
本来であれば、毎年「扶養控除等申告書」を提出したうえで、月々の源泉徴収が行われるはずですが、非居住者だと思っていたため、その手続きをしていません。
結果として、
- 月々の税金が足りない
- あるいは多く払いすぎている
という状態が生じます。
最終的には年末調整や確定申告で精算されますが、それでも途中の不足分については加算税の対象になることがあります。
「当時はそう扱うしかなかった」場合でも、救済されない点に疑問が残ります。
例② 税金の計算方法が変わっただけで、罰則が重くなる場合
税務調査によって課税方法が変わると、思わぬところで影響が出ることがあります。
たとえば、
- 当初は別枠で税金を計算していた収入が
- まとめて計算する方式に変わった
その結果、収入が一定額を超え、「財産の内容を届け出る書類」を出す義務が生じることがあります。
問題は、その義務が後から発生したにもかかわらず、書類を出していなかったとして、加算税が重くなる点です。
申告漏れではなく、制度上の前提が変わっただけなのに、同じ扱いになるのは分かりにくいところです。
例③ 最初は免税だったのに、あとで全部課税される場合
租税条約では、短期間しか日本に滞在しない人について、給与に税金をかけない仕組みがあります。
しかし、滞在日数が一定日数を超えると、この免税が使えなくなります。
しかも、超えた瞬間からではなく、最初の日にさかのぼって課税される場合があります。
結果として、当初は正当に免税として処理していた給与についても、後からまとめて税金を納める必要が出てきます。
このようなケースでも、加算税を免除する明確なルールは用意されていません。
「悪意がなかった」ことは考慮されないのか
これらの事例に共通するのは、
- 当初の処理は、その時点では合理的だった
- 意図的な隠ぺいや不正ではない
という点です。
それでも、結果だけを見て機械的に加算税が課されることがあります。
専門家の間では、「正当な理由があると考えるべきだ」という指摘もありますが、それが制度として明文化されていないため、判断が不安定になっています。
結論
税務調査は、過去の処理を見直す重要な仕組みです。
しかし、後から前提が変わることによって生じる不利益について、十分な配慮がない点は、制度上の課題といえます。
「その時点でできることはきちんとやっていたのか」という視点を、制度の中にもう少し取り込む必要があるのではないでしょうか。
税金のルールは、守りやすく、納得できるものであることも大切です。
参考
・税のしるべ(2026年2月2日)
・冨永賢一『国際源泉の税務』大蔵財務協会
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
