税制改正2026を読み解くシリーズ 第2回 防衛財源としての所得税:何がどこまで動くのか

税理士
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2026年度の税制改正では、長く先送りされてきた防衛財源の確保が核心的なテーマとして浮上しています。安全保障環境の大きな変化により、防衛力の強化は政策上の最優先課題となりました。そのため、安定的かつ継続的に財源を確保する仕組みが求められています。

これまで議論されながら結論が出なかった「所得税を用いた防衛財源」の扱いが、2026年度改正で大きく動く可能性があります。本稿では、所得税1%上乗せ案の背景、復興特別所得税との関係、政治的調整の論点、負担構造の変化などを整理し、今後の方向性を検討します。

1 なぜ防衛財源を所得税で手当てするのか

防衛費は今後中長期的に増加が見込まれています。装備品の更新、新領域(サイバー・宇宙・無人機)の整備、継続的な人件費など、一度増強を始めれば恒常的な費用が必要となります。このため、単年度での時限措置ではなく、安定財源を制度上確保することが不可欠です。

ここで議論されているのが「所得税額の1%を上乗せする新税(仮称)」です。所得税は税収規模が大きく、景気変動にも一定の安定性があるため、持続的な財源として位置づけやすい特徴があります。

また、納税者の裾野が広いため、特定の層に偏らない形で広く負担を分かち合うという政策意図もあります。こうした性質から、所得税を防衛財源に活用する選択肢が選ばれようとしています。


2 1%上乗せ案の仕組み

検討されている案は次のような設計です。

  • 所得税額に対して1%の新税を追加
  • 同時に復興特別所得税の税率を1%引き下げて相殺
  • 結果として当面は「単年度の税負担は変わらない」設計

復興特別所得税は東日本大震災の復興財源として設けられた目的税で、2037年まで継続することが決まっています。しかし税収は年々減り、将来的には防衛財源の必要額に比べて不足が見込まれています。このため、復興財源の一部を圧縮し、防衛財源へシフトする発想です。

この仕組みの特徴は、「負担が即時に増えたと感じにくい」という点です。政治的な受容性を高める狙いがある一方で、復興財源の目的性をどう整理するかという論点も生じます。


3 復興特別所得税を減らすことへの懸念

復興特別所得税は、震災復興という明確な政策目的のために課されてきた税目です。目的税である以上、使途の透明性が求められます。今回の見直しでは、以下のような懸念が議論されています。

(1)目的税の付け替えの是非

目的を持った税を別の目的に使うことへの慎重論があります。復興が完全に終了していない地域もあるため、政策目的の妥当性を丁寧に説明する必要があります。

(2)復興財源の不足の可能性

復興事業は年度によって支出額が変動します。復興需要が残っている中で財源を縮小することは、長期的な復興計画の進捗に影響を与える可能性があります。

(3)税制の信頼性

目的税の性質を変更することは、将来的な税制運営への信頼性に影響を与えるとの指摘があります。納税者が「特定の目的で集めた税が他の用途にも使われうる」と認識すれば、目的税の透明性がゆらぐことになります。

こうした理由から、復興特別所得税の扱いは単に財源調整の問題ではなく、税制全体の信頼性の問題とも深く関わっています。


4 政治的調整のポイント

所得税1%案がこれまで進まなかった大きな理由は、政治的調整の難しさです。

(1)「実質増税」と受け取られるリスク

単年度では負担は増えない仕組みであっても、目的が変わること自体が実質的な増税であるとの印象を与える可能性があります。特に所得税は納税者数が非常に多いため、影響の広さから慎重論が根強く存在してきました。

(2)連立政権内の意見調整

これまでの議論では、子育て支援や生活支援を重視する政党が「負担増」と受け取られる制度に慎重な姿勢を示してきました。政権の枠組みが変わり、税調幹部の顔ぶれも一新されたことで、議論が前進するかが注目されています。

(3)財政規律との整合性

近年、社会保障費の増加やインフラ老朽化への対応により、財政需要は増える一方です。防衛財源を新たに確保することは、財政規律の観点からも避けられない課題となっています。


5 所得税負担の変化と社会的受容

防衛財源の議論は「税率上昇の是非」だけでなく、「負担をどの程度、どの層が負うか」という問題とも深く関係します。

(1)所得税は累進構造を持つ

所得税は累進税率を採用しているため、所得が高い層ほど負担割合が大きくなります。これに1%上乗せする新たな税を加えることで負担の公平性を維持しつつ、比較的安定した税収が見込めます。

(2)広く薄く負担を求める設計

特定の税目だけに依存すると税収の変動リスクが大きくなります。所得税は納税者が広く分布し、安定的な税収が期待できます。こうした性質が「広く薄い負担」という政府のメッセージと一致します。

(3)社会的受容を高める鍵

負担増が避けられない場合でも、透明性と目的の明確化が受容性の鍵となります。防衛力増強がどのように国民生活の安全につながるのか、財源の流れがどれほど明確に示されるかが重要です。


6 今後の検討の焦点

2026年度改正に向けた議論では、次のポイントが焦点になります。

  1. 復興特別所得税の減額をどう説明するか
  2. 所得税1%上乗せの法的・技術的設計
  3. 法人税・たばこ税とのバランス
  4. 今後の財源需要(防衛だけでなく社会保障等)との整合性
  5. 国民に対する説明の透明性

防衛財源は一度決まれば長期間にわたり影響を及ぼします。短期的な政治判断だけでなく、長期的な制度安定性を重視する必要があります。


結論

防衛財源としての所得税1%上乗せ案は、2026年度の税制改正で最も注目される論点の一つです。復興特別所得税との付け替えにより単年度負担は変わらない仕組みであっても、目的税の扱いや税制の信頼性といった重要な課題を抱えています。

今後の議論では、負担の公平性、制度の持続可能性、目的税の透明性など、多くの観点から判断が求められます。税制は国の価値選択を映すものであり、防衛財源の制度化はその象徴的なテーマです。

次回(第3回)は「児童手当拡大と扶養控除縮小:税・社会保障の再設計」を取り上げます。


参考

日本経済新聞「税制改正、積年の3懸案」2025年12月5日ほか関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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