税制改改正2026を読み解くシリーズ 第3回 児童手当拡大と扶養控除縮小:税と社会保障の再設計

税理士
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2026年度税制改正に向けた大きなテーマのひとつが、児童手当の対象拡大に伴う「扶養控除の縮小」です。児童手当の支給範囲は高校生年代まで広がり、教育支援の給付は過去に例を見ない規模となりました。一方、税制には依然として「扶養控除」という形で、高校生を持つ世帯への軽減措置が残っています。

ここで問題となるのは、給付と控除が同時に存在することで、世帯間の負担の公平性が損なわれる可能性があることです。特に扶養控除は所得が高いほど減税効果が大きくなる仕組みのため、児童手当の拡大後も控除を維持すれば、高所得層とその他の層の格差が広がるとの指摘があります。

本稿では、扶養控除縮小案の背景、制度上の課題、教育支援政策との整合性、そして税と社会保障の役割分担という大きな視点から、制度再設計の方向性を整理します。

1 扶養控除縮小が議論される背景

まず、扶養控除縮小という議論がなぜ生じるのか、その背景を確認します。

(1)児童手当の支給範囲拡大

2024年10月から児童手当の給付対象が高校生年代まで拡大しました。加えて2026年度からは、私立高校も含めた授業料の実質無償化が始まります。これにより、高校生の教育負担に対する政府支援は飛躍的に増大しています。

(2)控除の逆進性

扶養控除は、世帯主の所得が高いほど節税効果が大きくなる仕組みです。例えば所得税率が20%の家庭では控除38万円は約7.6万円の減税効果がありますが、5%の税率の家庭では約1.9万円にとどまります。さらに非課税世帯には効果がありません。

給付を拡大しつつ控除も維持した場合、高所得層が最も恩恵を受ける構造になります。

(3)政策の整合性

児童手当の拡大は「子育て支援の強化」を目的としていますが、その裏側には「限られた財源をどのように配分するか」という問題があります。給付を拡大する以上、控除の適正化を議論するのは必然的な流れといえます。


2 縮小案の内容

検討されている縮小案では、以下のように控除額を引き下げることが中心となっています。

  • 所得税の扶養控除:38万円 → 25万円
  • 住民税の扶養控除:33万円 → 12万円

この変更により、高校生を扶養する家庭の減税額は縮小します。所得が高いほど影響は大きく、税率が高い層ほど負担増に直結します。

所得階層別にみると、

  • 高所得層:控除縮小の影響が最も大きい
  • 中間層:影響は中程度だが可処分所得の変動は相応に大きい
  • 低所得層(非課税世帯):もともと控除の恩恵がないため影響なし

という特徴があります。このため、控除縮小は「高所得層の税負担を増やす調整」としての性格を持ちます。


3 給付と控除の二重構造がもたらす問題

児童手当の拡充後も扶養控除を維持した場合、給付と控除が並立することで、制度全体が複雑になり、世帯間の不公平につながります。

(1)二重の優遇が生じる

高所得層は扶養控除による減税に加えて、児童手当の増額分も受け取るため、実質的に最も優遇される立場になります。

(2)制度が分かりにくくなる

控除と給付の併存は、家計にとって負担の実感がつかみにくく、制度理解を難しくします。

(3)税の再分配機能との整合性

税の役割のひとつである「所得再分配」を考えると、逆進性のある控除を維持することは政策目的と矛盾する面があります。

そのため近年は、控除中心の支援から「給付中心」へ政策をシフトさせる議論が進んでいます。


4 教育費政策との一体化

2026年度から本格化する高校授業料の実質無償化は、教育費負担を大きく軽減する制度です。これに児童手当拡大も加わることで、子育て世代への給付はこれまでにない規模となります。

この状況を踏まえると、扶養控除をそのまま維持することは制度のバランスが大きく崩れることになります。

(1)教育支援の給付はすでに十分に手厚い

授業料無償化や児童手当拡大は、既存の控除との差し替えとして理解することも可能です。

(2)税制と社会保障政策のすみ分け

税制は「負担の公平性」を担い、給付は「生活支援」を担うという役割整理が必要になります。

(3)控除を維持するなら別の財源調整が必要

もし控除を維持する場合は、給付増に伴う財源を確保するために、別の税制改正が必要になる可能性があります。


5 所得階層別の影響と社会的受容

扶養控除縮小は特定の所得層に影響しやすいため、政策の受容性が課題になります。

(1)高所得層への負担調整としては合理的

給付中心の支援が増える中で、控除による高所得層の優遇を調整するのは政策的には一貫性があります。

(2)中間層の反発が懸念

控除縮小は中間層の家計に影響する可能性があります。特に子育て中の世帯では可処分所得の変動が大きく感じられることがあります。

(3)税制の透明性が鍵

扶養控除を縮小する理由や、財源の使われ方を丁寧に説明することが、制度の受容性を高めるために不可欠です。


6 今後の制度再設計の方向性

税制と社会保障の一体化を考えると、扶養控除縮小は単なる税制調整ではなく、制度再設計の入口ともいえます。

検討すべきポイントとしては、

  1. 控除から給付へ支援の軸足を移すか
  2. 低所得層・中間層の負担調整をどう行うか
  3. 教育費政策との整合性をどう確保するか
  4. 税制簡素化をどこまで進めるか
  5. 将来的には給付付き税額控除の導入も検討するか

といったテーマがあります。特に給付付き税額控除は海外では広く採用されており、支援を必要とする層に確実に届けるという点で有効性が高いと評価されています。


結論

扶養控除の縮小は、児童手当拡大などの教育支援政策との整合性を取るために避けられない論点です。控除の逆進性を調整し、制度の公平性と透明性を高めることが目的にあります。また、税制と社会保障の役割を整理する契機ともなり、今後の制度設計に大きな影響を与えるテーマといえます。

次回(第4回)は「自動車関連税制:EV時代の税体系をどう作るか」を取り上げます。


参考

日本経済新聞「税制改正、積年の3懸案」2025年12月5日ほか関連資料をもとに再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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