税制の「簡素化」はなぜ実現しないのか

FP
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税制改革が語られるたびに、「簡素・中立・公平」という言葉が掲げられます。なかでも「簡素化」は、多くの人が直感的に賛成しやすい目標です。しかし現実には、税制は年々複雑さを増し、例外や特例が積み重なっています。
なぜ税制の簡素化は、繰り返し唱えられながらも実現しないのでしょうか。本稿では、その背景を制度と政治の両面から整理します。

簡素化は「誰かの不利益」を必ず伴う

税制の簡素化とは、多くの場合、控除や特例を整理・廃止することを意味します。
しかし、既存の控除や特例には、必ずそれを利用してきた納税者や企業が存在します。簡素化を進めることは、特定の層にとっては実質的な増税となりやすく、強い反発を招きます。

結果として、「制度を単純にする」という抽象的な目標よりも、「この控除は残す」「この特例は延長する」といった個別対応が優先されます。

公平性と簡素化はしばしば対立する

税制を簡素にすれば、制度は分かりやすくなります。しかし同時に、個々の事情を反映しにくくなります。
子育て、医療、住宅取得、地域差、企業規模といった要素を考慮すればするほど、制度は複雑になります。

公平性を高めるために細かな区分や控除を設け、その結果として簡素化が後退する。この矛盾は、税制が抱える本質的なジレンマです。

政策目的が税制に詰め込まれすぎている

日本の税制は、単なる財源調達の仕組みにとどまらず、政策誘導の手段として使われてきました。
少子化対策、地域振興、研究開発促進、賃上げ支援など、本来は歳出政策で対応すべき分野も、税制優遇という形で組み込まれています。

税制に政策目的を持たせるほど、例外や条件が増え、簡素化から遠ざかります。

税制簡素化に「勝者」がいない

税制改正において、簡素化は政治的な成果として示しにくい分野です。
控除を廃止しても、新たに利益を得る層は見えにくく、「誰かの負担が増えた」という印象だけが残ります。

一方で、新設された控除や特例は、明確な受益者を生みます。政治の世界では、成果が見えやすい政策が優先されやすく、簡素化は後回しにされがちです。

一度複雑になった税制は戻りにくい

税制は、積み上げ型の制度です。
一度導入された控除や特例は、廃止すると影響を受ける人が明確になるため、撤廃のハードルが高くなります。その結果、制度は追加される一方で、整理されにくくなります。

この「不可逆性」が、税制の複雑化を加速させています。

結論

税制の簡素化が実現しないのは、理念が間違っているからではありません。
簡素化が常に誰かの不利益を伴い、政治的な成果として評価されにくいという構造的な問題があるからです。税制を理解するうえでは、「なぜ複雑なのか」を知ることが、現実的な第一歩になります。

参考

・日本経済新聞各紙 税制改革・財政関連記事


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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