研究開発減税が大きく転換へ 海外委託上限・控除率見直し・繰越復活をどう読むか

税理士
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政府・与党は研究開発減税の仕組みを大きく見直す方針を示しています。海外への研究委託費に上限を設け、国内研究への誘導を強める一方、量子・AIなど国家戦略技術には高い控除率を設定する方向です。さらに、中小企業にとって重要だった控除繰越制度が復活し、研究投資の予見可能性が高まることも特徴です。
本稿では、これらの改正案が企業の研究投資や国内人材の育成にどのような影響をもたらすのかを整理します。

1. 海外委託研究への減税縮小

これまで研究開発費の多くが海外企業・大学へ委託されてきた状況を踏まえ、政府は国内への波及効果の不足を問題視しています。
そのため、2026年度は海外委託費の70%までしか控除対象としない仕組みへ改め、2028年度には50%まで縮小します。
一方、国内だけでは実施が難しい治験(臨床試験)は例外扱いとし、従来どおり対象に含めます。
研究のグローバル化が進む中で、海外委託への一定の制限は企業にとって負担にもなりますが、国内拠点の形成や人材育成の促進という政策目的が明確に示された形です。

2. 大企業向け要件の厳格化

大企業については、控除率の適用要件が引き上げられます。
最も有利な控除を受けるには、研究費を「直近平均から約22%以上増加」させる必要があり、逆に10%以上減少した場合は減税不可となります。
研究費が減少傾向にある企業にとっては厳しい条件となり、一定の研究投資維持が求められる制度に変わっていきます。

3. 中小企業向けの控除繰越制度が復活

中小企業やスタートアップは赤字決算が多く、研究開発減税の恩恵を受けにくいことが長年の課題でした。
今回の改正で、控除額の繰り越し(3年間)が復活する見通しとなり、利益がない年でも将来の黒字期に控除を活用できるようになります。
繰越制度は2015年度に一度廃止されましたが、研究投資の予見可能性を高めるために再導入されます。

4. 国家戦略技術への重点支援(量子・AI)

量子技術やAIといった国家戦略技術については、新区分「戦略技術領域型」を設け、高い控除率を設定します。

  • 企業単独研究:控除40%
  • 指定研究拠点との共同研究:控除50%

さらに、法人税額に対する控除割合は最大10%となり、既存枠組みとの併用もできます。
政府が成長戦略の中核に位置づける分野に資源を集中させる意図が鮮明です。

5. 国内研究の強化とスタートアップ支援への流れ

今回の改正は、研究開発の「国内回帰」と「スタートアップ支援」を同時に推進する方向性を持ちます。
海外委託の上限は国内研究者の雇用や拠点整備につながり、繰越控除の復活は資金力に乏しい中小企業の挑戦を下支えします。
一方で、大企業には研究費を増やし続けることが求められ、財務面での負担感が高まる可能性もあります。


結論

研究開発減税の見直しは、政府が研究投資を「量から質へ」転換させようとしている象徴的な政策と言えます。
海外委託への抑制を通じて国内研究力を底上げしつつ、量子やAIといった戦略技術には手厚い支援を投じる構造が整いつつあります。
中小企業やスタートアップにとっては、繰越制度の復活が長期的な研究計画を立てやすくする追い風になります。
今後は、企業規模や業種ごとに制度の影響がどのように現れるのか、研究投資の実態と合わせて注視していく必要があります。


参考

日本経済新聞「研究開発減税、海外委託に上限 28年度5割に」(2025年12月12日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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