相続税の調査は、無作為に行われているわけではありません。
国税庁は、申告書や各種資料、外部情報を基に、調査の要否を慎重に選定しています。
前回の記事では、「簡易な接触」が調査の重要な入口になっていることを解説しました。
今回は一歩踏み込み、どのような申告が調査に発展しやすいのかを、実務の視点から整理します。
「金額が大きい=調査される」ではない
相続税調査というと、「相続財産が多いと調査される」と考えられがちです。
確かに、一定規模以上の相続は調査対象になりやすい傾向はあります。
しかし実務上は、
・財産規模がそれほど大きくなくても調査に入るケース
・高額でも調査に至らないケース
が存在します。
重要なのは金額そのものよりも、申告内容の整合性と説明可能性です。
特徴① 財産構成が不自然な申告
調査に発展しやすい典型例の一つが、財産構成の偏りです。
例えば、
・預金が極端に少ない
・不動産しか計上されていない
・現金・有価証券がほとんどない
こうした申告は、「本当にこの内容で完結しているのか」という疑問を生みます。
特に高齢の被相続人の場合、生前の生活費や収入状況と整合しない財産構成は、確認対象になりやすくなります。
特徴② 預金残高が急減している
申告直前の預金残高が大きく減少している場合も、注意が必要です。
・相続開始前数年で多額の引き出しがある
・死亡直前に大きな資金移動がある
これらは、生前贈与や名義預金、使途不明金の有無を確認するきっかけになります。
たとえ正当な理由があったとしても、説明ができなければ調査に進む可能性が高まります。
特徴③ 名義と実質がずれている可能性
名義預金や名義株式の問題は、今も相続税調査の中心的テーマです。
・配偶者や子の名義だが、原資が被相続人
・管理・運用を被相続人が行っていた
このような状況が疑われると、調査対象になりやすくなります。
申告書上は記載がなくても、過去の金融情報や取引履歴から把握されるケースもあります。
特徴④ 評価が難しい財産が多い
次のような財産が多い申告も、調査リスクが高まります。
・土地評価が路線価から大きく乖離している
・非上場株式が含まれている
・貸家・貸地の評価減を多用している
評価自体が誤りとは限りませんが、
「なぜその評価になるのか」を説明できるかどうかが重要です。
説明が不十分な場合、調査官が実地で確認する必要性が高まります。
特徴⑤ 生前贈与が多い、または曖昧
生前贈与が多い申告も、確認対象になりやすい分野です。
・毎年定額の贈与が続いている
・贈与契約書が形式的
・実際の管理が贈与後も変わっていない
これらは、暦年贈与の否認や名義財産認定につながる可能性があります。
申告内容に一貫性がない場合、簡易な接触から実地調査に移行しやすくなります。
特徴⑥ 無申告・期限後申告
無申告や期限後申告は、それだけで調査対象になりやすい分野です。
特に、
・相続税が発生する可能性が高いにもかかわらず申告がない
・申告後に多額の修正が生じる
場合は、調査の優先順位が高くなります。
「悪意」よりも「説明不能」が問題になる
相続税調査に発展する申告の多くは、必ずしも悪意があるわけではありません。
実務上は、
・記録が残っていない
・家族間で認識が曖昧
・整理しきれないまま申告している
といったケースが少なくありません。
しかし、税務調査では「説明できるかどうか」が最も重要です。
説明不能な部分が多いほど、調査の必要性は高まります。
結論
相続税調査に発展しやすい申告には、共通する特徴があります。
それは、金額の多寡ではなく、整合性と説明可能性の弱さです。
申告時点で、
・なぜこの財産内容なのか
・なぜこの評価になるのか
・なぜ相続財産に含めていないのか
を説明できる状態にしておくことが、最大の調査対策となります。
参考
・税のしるべ「6事務年度の相続税調査状況、追徴税額は12.3%増の962億円」(2025年12月22日)
・国税庁「相続税の調査状況に関する公表資料」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
